話は一年前にさかのぼります

2014年4月1日にこのblogに掲載した記事を覚えていらっしゃるでしょうか?

4月1日に掲載したため「エイプリルフールか?」と話題にもなりましたが、事実です。IIJは2014年5月5日に開催された同人誌即売会「文学フリマ」に参加したのです。といっても、同人誌を販売するためではなく無線LANによるインターネット接続サービスを提供するためでした。

IIJは以前から無線LANアクセスポイントにもなるアプライアンス(SA-W1)を開発しており、そのテストのために、同人誌即売会の会場で無線LANサービスを提供したのです。昨年の記事も書いていますが、同人誌即売会は広い会場に高い人口密度という特殊な環境、持ち込まれる無線LAN機器(スマホやゲーム機)のバリエーションが豊富という特徴があり、無線LANアクセスポイントの極限状態での試験として大変興味深い環境なのです。

そんなわけで文学フリマに参加してきたのですが、事後のレポートがその後1年間掲載できていませんでした。別に外に出せないような深刻なトラブルが起こったわけではなく、無線LANサービス自体は無事に提供できたのですが、関係者が少々息切れしてしまい、記事を書くタイミングを失ったという理由でした。レポートを心待ちにして頂いた方には申し訳ありません。

実は、その後もいくつか機会があり、カンファレンスなどでSA-W1を使った無線LANサービスを提供しています。そして、それと平行して一つの大きなプロジェクトが進められていました。コミケットスペシャル6への参加です。

コミケットスペシャル6で無線LAN提供

「同人誌即売会」は数多くありますが、その中で最も知名度が高く、最も大規模なものが「コミックマーケット」(コミケット・コミケ)です。毎年夏・冬に開催されるコミックマーケットはそれぞれ3日間で50万人~60万人の参加者が集まります。また、世界最大の同人誌即売会、日本のサブカルチャーの象徴として、世界中から参加者が集まっています。

そのコミックマーケットの「スペシャル版」として5年に1度開催されるのが、「コミケットスペシャル」。今年は3月28日・29日に「コミケットスペシャル6 OTAKU SUMMIT」と題して、幕張メッセで開催されます。

コミケットスペシャルは夏冬のコミックマーケットと比べると規模は小さいのですが、それでも昨年の文学フリマと比べると、相当な拡大です。

  第十八回文学フリマ コミケットスペシャル6
会期 2014年5月5日 2015年3月28日・29日
会場 東京流通センター 幕張メッセ
無線LANサービス面積 約4,000m2 約20,250m2
なんと面積5倍!!

コミケットスペシャル6での無線LANサービスは、ホール2・3およびホール5で提供します。上記は3ホール分の面積です。(29日はホール2ではサービスを提供いたしません)

激しい混雑が予想される「同人誌即売会」エリア、および、海外からの来場者が多数いらっしゃる企画エリアをサービスの提供エリアとして選びました。

無線LANサービスの詳しい情報は、コミケットスペシャル6 IIJ Wi-Fiサービスのお知らせ、または、本日発売のコミケットスペシャル6 カタログをご覧ください。

Free Wi-Fiサービスご案内
Free Wi-Fiサービスご案内

IIJのコミケットスペシャル6参加情報は@IIJ_cmkspでつぶやきます。当日の運用状況もこちらでご告知しますので、是非フォローください。


文学フリマの結果をおさらい

コミケットスペシャル6でのチャレンジの前に、文学フリマのチャレンジを振り返ってみましょう。

文学フリマでの無線LANの利用状況は次の通りでした。

会場設置AP数
18台
累計接続端末数
627台
ピーク時接続端末数
約450台
平均帯域
約20Mbps
ピーク時帯域
約80Mbps
1APあたりの最大接続数
48台

文学フリマ事務局の発表によるとイベント参加者数が約3,500人ということですので、参加者の中の20%弱の人が何らかの形で無線LANを利用されたことになります。当初の設計では、ピーク時で同時に1,000台の端末が利用することを考えていましたので、キャパシティ的にも十分。参加者の皆様からも大きなクレームはなく、トラフィックもそれなりに発生していたので、まずは成功と言えるでしょう。

Pros

設置したアクセスポイントは、前述のSA-W1です。この機器は、もともと小規模オフィス・店舗向けに開発したものなので、こういった広い空間で大人数を相手にサービスをするには不向きです。そこで多数の機器を投入し、細かく配置することでキャパシティを確保することにしました。このような設置方法だと、電波が飛びすぎることで互いに干渉を起こしかねないため、電波の強さを調整しています。(この機能は文学フリマに合わせて実装しました)

会場内に人の流れがあったことによる影響もありますが、電波出力の調整とアクセスポイントを会場全体に適切に配置できたことにより、一部のAPに極端にクライアントが集中するという状況を避けることができました。

Cons

前述の通り、小型のアクセスポイントを多数配置したため、当日の設置作業が大変でした。何しろ一日限りのイベントです、設営にはイベントが始まる前の短い時間しか使えません。限られた設営時間でケーブルを敷設するために、事前に会場内の配線計画を立て、スタッフをどういう経路で歩かせるかの手順書を作って当日に挑む必要がありました。なお、ケーブルさえ配線してしまえば、SACMを使った集中管理ができます。これこそがIIJの目指すマネジメントの姿です :-)

また、無線区間の混雑対策も、大きな課題でした。無線LANシステムでは、アクセスポイントが定期的に「Beacon」と呼ばれるフレームを送るための信号を発しています。一方、無線LAN端末は、自分が無線LANに接続する際に、付近に存在するアクセスポイントを探すための「Probe Request」を発し、アクセスポイントはこれに答えて「Probe Response」を返します。この「Probe Response」は、「Probe Request」を受け取ったすべてのアクセスポイントが返します。これらの信号は、周囲にアクセスポイントや無線LAN端末の数が多くなると、それに従って増加します。一つ一つのデータ量は多くないのですが、過去との互換性のためこれらの信号はゆっくり送信されるため、データ量の割に無線の占有時間が長いのが特徴です。アクセスポイントの数が多い空間では、やりとりされる通信のほとんどの時間がBeaconとProbe Request/Responseで埋まってしまい、本来の通信データがわずかしか流せない、という現象が発生します。

多数の人が参加するイベントでは、参加者が持ち込む多数のモバイルWi-Fiルータが、この問題をより深刻にしています。文学フリマの際には、場内アナウンスで「モバイルWi-Fiルータの電源は切ってください」と度々呼びかけていましたが、それでも開催期間中366台の無線LANアクセスポイントが観測されました。(IIJが設置した18台を含む。多くはモバイルWi-Fiルータや、テザリングを有効にしたスマートフォンだと推測されます)

これは無線LANの仕組み上の問題ですので、アクセスポイントの機能や設定では回避できません。一つの対策として、モバイルWi-Fiルータではほとんど使われていない、5GHz帯(IEEE802.11a)の電波でサービスを提供するという方法がありますが、SA-W1は5GHz帯の電波に対応していなかったため、文学フリマでは実現できませんでした。

そしてコミケットスペシャル6へ

この経験を踏まえて、コミケットスペシャル6では以下のような技術・対策を盛り込みます。

新しいアクセスポイント機器の投入

コミケットスペシャルではSA-W1に代わり、新しいアクセスポイント機器を投入します。この機器は大規模な無線LANサービスを提供するために開発された機器で、ビームフォーミングなど、広い場所で多数の利用者向けにサービスを提供するための機能が備わっています。(アクセスポイント機器はGONET Systems, Ltd.様にご協力いただきました)

2.4GHz帯、5GHz帯でサービス提供

今回導入する機器は5GHz帯の電波に対応していますので、会場内では、2.4GHz帯(IEEE802.11b・IEEE802.11g)・5GHz帯(IEEE802.11a)双方でサービスを行います。端末側が5GHzに対応していれば、モバイルWi-Fiルータの混雑を避けて無線LANを利用することができます。

ネットワーク敷設をハイレベルに

新しい機器の導入により、会場内に設置するアクセスポイントの数はぐっと少なくなりました。しかし、会場の面積自体はとても広くなっています。以前のように、IIJの開発スタッフだけでネットワークを敷設する1のは困難です。そこで、IIJのグループ会社でネットワーク工事やクラウドの物理構築を行っている、ネットチャート株式会社と一緒にネットワークを構築することにしました。

みなさんが公平にネットワークを使える仕組みを

多数の端末があるネットワークで起こりがちなのが、端末による通信速度の不均衡です。有線でも無線でも、IPネットワークでは複数の端末が通信を行う場合、どの端末がどの程度の帯域で通信できるかは「やったもの勝ち」的な要素がありました。このため、特定の端末だけが過剰に通信して、他の端末を圧迫するという現象が発生することがあります。

公衆無線LANサービスのように、多数の方が利用するネットワークではこのような現象はあまり好ましくありません。そこで、今回のネットワークでは、SA-W1にも実装されたTCPトラフィックオプティマイザを使い、できるだけ複数の端末が公平に通信できるような制御を試みます。

この仕組みは、通信の最高速度を高めるためのものではありません。ですので、スピードテストアプリで速度計測をしてもあまり良い値が出ないかもしれません。公衆無線LANでは最高速度よりも公平性を優先すべきではないかと考えて、このような設計にしています。

もちろんIPv6使えます

以前からの取り組みですが、今回の無線LANサービスでもIPv6を提供いたします。実はAndroidやiPhoneのWi-FiはIPv6に対応しているので、無線LAN側でIPv6を有効にするだけで、利用者が特に意識しなくてもIPv6で通信が行われるのです。実際に今までの提供事例でも一定量のIPv6トラフィックが観測されていますので、今回もある程度のトラフィックが流れるのではないかと考えています。

NOCはホール内に

アクセスポイントは会場内各所に設置されていますが、そこから伸ばされた有線ネットワークを集約する場所が必要です。また、トラフィック制御を行ったり実験用のデータを収集するための機器の設置場所も必要です。今回、そういった機材の集積場所を「NOC」(Network Operation Center)として、ホール3 企画サークルスペース内 P-32に設置します。スペース内にはIIJのスタッフが常駐し、機材の運用を行っていますので、興味がある方はのぞきに来てみてください。

※運用作業やトラブル対応のため、声をかけて頂いてもお話しすることができない場合があります。スタッフが忙しそうにしている場合はどうぞ温かく見守ってやってください。

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無線LANだけだと思った?

折角のコミケです。無線LANの提供もエキサイティングなチャレンジではあるのですが、それだけでは寂しいですよね?

企業ブースで「痛SIMパッケージ」を販売します!
痛SIMパッケージ販売のご案内
痛SIMパッケージ販売のご案内

やっぱり企業でコミケに参加するなら、企業ブースでグッズ売ってみたいですよね。ですよね。(大事なことなので2回書きました)どうせやるなら全力で取り組みたい。ということで、コミックマーケットで活躍する5名の作家様にご協力頂き、IIJmioの各種パッケージの特別版を製作・販売することにいたしました。

特別版パッケージ
特別版パッケージ

ご協力いただいた作家のみなさま

べっかんこう 様・ななろば華 様・涼香 様・えれっと 様・6U☆ 様

今回のコミケットスペシャルのテーマは「OTAKU SUMMIT 2015」世界のオタクが集まる祭典です。世界中からコミケにお越し頂いた皆様は、きっとアフターコミケを日本各地の観光地で過ごされることでしょう。そのときに使って頂くための、訪日旅行者向けプリペイドSIMカード「Japan Travel SIM 特別版(キャラクターイラスト: べっかんこう)」を販売します。(Japan Travel SIMは日本国内にお住まいの方でも購入・ご利用いただけます)

また、日本国内にお住まいの方には、1,600円/月から利用できる音声通話対応SIM「みおふぉん」の申し込みパッケージ「IIJmio音声通話パック 特別版(イラスト: ななろば華)」と、通信量追加チャージのためのプリペイドカード「IIJmio クーポンカード 特別版(イラスト: 涼香・えれっと・6U☆)」を販売。IIJmio音声パックはもちろんMNPにも利用できますので、これを機会にIIJmioへのお乗り換えはいかがでしょうか?2もちろん、各作家様のイラストが入った「グッズ」としてお求めいただいてもOKです。

ちなみにこのクーポンカード、B5の下敷きサイズです。通常版と並べるとご覧の通り。イラストをじっくり楽しめますし、通信量をチャージした後も飾って嬉しい仕様にしてみました。

クーポンカード特別版
クーポンカード特別版と通常版……どうしてこうなった

IIJmioのスペースは、企業ブース 546: IIJmio ~みおふぉん~です。こちらもご来場お待ちしています。

痛SIMパッケージ販売のご案内
痛SIMパッケージ販売のご案内

IIJmio企業ブースの情報も@IIJ_cmkspでご紹介します。フォローお待ちしています。


スタッフ間の連絡にビジネス用メッセンジャーdirectを採用

コミケ会場ではSIM販売チーム・Wi-Fi提供チームそれぞれで多数のIIJスタッフが活動する予定です。SIM販売チームではスタッフの休憩の調整がありますし、Wi-Fiチームでは会場内に居るスタッフがアクセスポイントの状況をシェアする必要があります。もちろん、携帯電話やメールでやりとりをしてもいいのですが、折角なのでcoolなツールを使ってみたいと考えました。そこで、今回はビジネス専用のメッセンジャーdirectを利用することにしました。

directはWebブラウザやスマホのアプリで使えるメッセンジャーで、APIが公開されていて独自のbotが開発できるのが特徴です。この機能を使って、メッセンジャー経由でWi-Fiのアクセスポイントの情報を自動的にシェアする予定です。

  1. 文学フリマの際には、普段コードを書いている開発者がケーブルを敷設していました []
  2. パッケージ購入後、ご自宅で手続きを行ってください []