東京・春・音楽祭に協力しています

 
 

東京の春、上野を音楽で彩る「東京・春・音楽祭」。10年目を迎え、「春祭(ハルサイ)」の通称で親しまれるこの音楽祭を、IIJは様々な形でお手伝いしています。1

その一環として、今年の春祭のメインコンサートの一つである東京春祭マラソン・コンサート vol.4 リヒャルト・シュトラウスの生涯 ~生誕150年に寄せて第三部~第五部をインターネットで中継いたします。

配信サイト http://www.harusailive.jp/
配信日時 2014年3月23日(日曜日) 15:00 ~ 20:00 頃
演目 東京・春・音楽祭 2014
東京春祭マラソン・コンサート vol.4
リヒャルト・シュトラウスの生涯~生誕150年に寄せて
 [第Ⅲ部] 時代の寵児となった、若き天才音楽家
 [第Ⅳ部] オペラの作曲家として
 [第Ⅴ部] 辞世のうた―去りゆく古き良きヨーロッパ
プログラム詳細

春祭中継は何で見る?

今回の春祭中継は、次の三つの方式で配信します。

方式 視聴可能なデバイス
方式1: HEVC/H.265 over MPEG-DASH(DivX Live)
  • パソコン(Windows, MacOS X)
方式2: アクトビラ/Live
  • アクトビラ対応機器(TV・BDレコーダー等)
方式3: IIJ大規模コンテンツ配信サービス
マルチデバイスストリーミング/Live
  • パソコン(Windows, MacOS X)
  • スマートフォン・タブレット (Android, iPhone, iPad)
  • ゲームコンソール (Wii U等)
  • HDMIドングルデバイス

アクトビラ/Liveは、インターネットを介してTVに向けて生放送を配信する方式です。パソコンをお持ちでない方でも、大画面でコンサートをご覧頂けます。

マルチデバイスストリーミング/Liveは先日このblogでも紹介したとおり、パソコンだけでなくスマートフォン・タブレット・ゲームコンソール・HDMIドングル型デバイスでもご覧頂ける、「マルチ」な配信サービスです。スマホやタブレットがあれば、外出先でもコンサートをご覧頂けます。

そして三つ目、HEVC/H.265 over MPEG-DASH (DivX Live)について、この記事で紹介しようと思います。

HEVC/H.265 over MPEG-DASH

先日の記事で「イベント中継で技術検証を行っている」という事をご紹介いたしましたが、今回の「東京・春・音楽祭」でもさらなる新技術を投入する事になりました。それが「HEVC/H.265 over MPEG-DASH」です。

HEVC (H.265)は、新しいビデオ圧縮の方式です。現在標準的に用いられているH.264に比べ、2倍の圧縮効率(半分のデータ量)で同じ品質のビデオを配信できるため、ハイビジョンよりもさらに高精細なUltra HDと呼ばれている4Kや8K TVでの利用が期待されています。

そして、もう一つのキーワードがMPEG-DASH。MPEGというと、H.264と同じようなビデオ圧縮の技術かと思われがちですが、MPEG自身は圧縮技術も含んだビデオに関する各種規格の集合体です。2MPEG-DASHの”DASH”は「Dynamic Adaptive Streaming over HTTP」の省略で、文字通りHTTPを使ったビデオデータの伝送規格を指しています。

なぜ、MPEG-DASHなのか、という話をする前に、1990年代から最近に至るまでのビデオの配信規格(プロトコル)について、簡単に振り返ってみたいと思います。

ビデオの配信規格について振り返ってみる

「インターネットでビデオを配信する」ということは、初期のインターネットにとっては荷が重いことでした。そこで、ビデオを効率的に配信するための専用のプロトコルがいくつも考案されてきました。

標準化の流れ: RTP/RTSP

黎明期には規格が乱立していたビデオ用プロトコルですが、次第に標準化が進みます。初期に大きなシェアを獲得したReal Playerや、その後普及したMicrosoftのWindows Mediaは、ビデオの圧縮方式こそ異なりますがプロトコルとしてRTP/RTSPを使用していました。

Flash Videoの流行: RTMP

Real Playerや、Windows Media Playerはビデオを視聴する専用のアプリを使います。ブラウザのプラグインとして、Webの画面の中にアプリを埋め込む事もでき、JavaScriptを使ってWebコンテンツと同期してビデオをコントロールすることも可能でしたが、WebブラウザによりJavaScriptの実装が異なるなど、コンテンツ制作時の柔軟性はあまり高いものではありませんでした。Webの中にビデオを埋め込む手法が一般化するにつれシェアを伸ばしたのがFlash Videoです。Flash Videoが非常に普及した結果、Flashが利用するプロトコルのRTMPの利用が急速に進みました。

YouTubeの席巻: HTTP Progressive Download

その一方で急速に拡大したのがご存じYouTubeです。YouTubeでのビデオの配信が他と異なるのは、配信にHTTP Progressive Downloadが使われている点です。3

HTTP Progressive Downloadは、ビデオ専用のストリーミングプロトコルではなくWebページの閲覧で使われているのと同じHTTPそのものです。本来のHTTPでは、ビデオのすべてをダウンロードし終わってから再生が始まるのですが、Progressive Downloadではビデオプレーヤーの工夫によりダウンロードしながらビデオを再生することができ、再生までの待ち時間が短縮されます。この方法はライブ中継のようなエンドレスの配信には不向きですが、尺の短いビデオであれば比較的手軽にビデオを配信することができました。

専用プロトコルから汎用プロトコルへ

さて、ここで一つの転換点が訪れます。従来使われてきたRTP/RTSPやRTMPは、リアルタイム性の高い通信を行うために特別に開発されたストリーミング用のプロトコルです。それまでは、メディアを効率的に配信するためにはこのようなリアルタイム性が高いプロトコルが必要、という考え方が一般的だったのです。ですが、先に書いたようにHTTP Progressive Downloadを使ったYouTubeが、技術的にも大成功したことを受けて「HTTPでもいけるんじゃね?」という空気が感じられるようになりました。

iPhone登場: Apple HTTP Live Streaming

そして登場するのがiPhoneです。iPhoneでは、Apple社の方針によりFlashが排斥され、それまで普及していたFlash Videoも利用できなくなりました。変わって搭載されたのが、Appleが開発したApple HTTP Live Streaming(HLS)です。

HLSは名前の通りHTTPをベースにしています。標準プロトコルのHTTPをベースにしているという点で、HTTP Progressive Downloadと共通性があります。

YouTubeで使われていたHTTP Progressive Downloadは単に大きなファイルをダウンロードするだけと芸がなく、尺の長い(大きなサイズの)ビデオでは必ずしも使い勝手が良くありませんでした。HLSではセグメント化(小さく分割された)ファイルを順次ダウンロードするという仕組みにすることで、長尺のビデオやエンドレスのビデオにも対応できるようになりました。

HTTPベースプロトコルの普及

これらのHTTPベースのプロトコルは、従来のRTP/RTSP・RTMPと比べると、大変シンプルな仕組みです。また、そもそもWebでさんざん利用されてきた技術のため、大規模に配信するための技術がこなれています。たとえば、大規模配信に使う「キャッシュ」という技術は、従来型のストリーミング専用プロトコルで実現しようとしても一筋縄では行きません。これがHTTPベースであれば、比較的簡単に大規模なインフラを構築できてしまいます。

そこでApple以外の各社もビデオの配信にHTTPベースのプロトコルを導入するに至りました。Microsoft Smooth Streamingや、Adobe HTTP Dynamic Streaming(HDS)です。

再び標準化へ: MPEG-DASH

このように多様化したHTTPベースのプロトコルですが、MicrosoftやAdobeなどの企業が集まり、標準化が進められることとなりました。標準化作業はMPEGの委員会に持ち込まれることとなり、規格名にもMPEGを関したMPEG-DASH(Dynamic Adaptive Streaming over HTTP)が策定されたのです。

ただ、MPEG-DASHは将来の普及が見込まれているものの、現時点では再生環境が十分ではありません。まさにこれからの技術なのです。

将来的には意識せずに使っていただきたい

今回の春祭コンサート中継に新技術であるMPEG-DASHが投入されたのはこのような背景からです。コンテンツ配信事業者(CDN事業者)でもあるIIJとしては、こういった機会を活用してMPEG-DASHがちゃんと使えることを実証してゆきたいと考えています。

とはいえ、こんな配信プロトコルのあれこれは、本来コンテンツを制作する人にも、試聴する人にも関係のないことです。配信用のコンテンツが持ち込まれれば、途中の通信方式を気にすることなく、たいていのデバイスで再生できる。そういう環境が本来望ましいのです。「マルチデバイスストリーミング/Live」はそのために作られたサービスですので、将来的にはMPEG-DASHを使った配信も、自然と行えるようにサービス中に取り込んでゆきたいと考えています。

今回はビデオの配信プロトコルについて色々書きましたが、ともあれ、3月23日はご自宅で、出先で、美しい演奏をお楽しみ頂ければと思います。


  1. IIJは「東京・春・音楽祭」に協賛しています。また、「東京・春・音楽祭」実行委員長は、弊社会長、鈴木です。 []
  2. MPEGはビデオに関する標準を策定する団体「The Moving Picture Experts Group」の略称でもあります。 []
  3. YouTubeでもプレミアムコンテンツやライブ中継など、一部のコンテンツはHTTP以外のプロトコルが利用されていたようです。 []

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