IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます。
IIJ.news vol.137 もくじ
- ぷろろーぐ「変わる」 鈴木 幸一
- 特別対談 人となり
ウシオ電機株式会社 代表取締役会長 牛尾 治朗氏
IIJ 代表取締役社長 勝 栄二郎- 特集「IT Topics 2017」
- Topic1 モバイル
- Topic2 セキュリティ
- Topic3 IoT
- Topic4 クラウド
- Topic5 コンテンツ配信
- Topic6 グローバル
- Topic7 バックボーン
- Topic8 データセンター
- Topic9 フィンテック
- Topic10 ヘルスケア
- 人と空気とインターネット シェアリングのすすめ
- インターネット・トリビア IPアドレスと位置情報 ※この記事で掲載
- グローバル・トレンド Cloud Expo Asia 2016 出展レポート
インターネット・トリビア: IPアドレスと位置情報
インターネットにつながっているコンピュータに必ず割り当てられる IP アドレス。これを使えば、コンピュータがどこにあるかを調べられるという話があります。実際にいくつかのサービスでは、IP アドレスから位置を判定して、アクセス制御などに使っています。ですが、今となっては判定ミスが非常に起こりやすく、技術的にあまり良い方法とは言えません。どうしてでしょうか?
もともと IP アドレスはインターネット上でのコンピュータの識別のために使われるもので、そこに位置情報は含まれていません。ですので、IP アドレスだけで位置を特定できるというのは、本来おかしな話です。IP アドレスと位置情報がつながるようになったのは、初期のインターネットの構造に由来しています。
個人でのインターネット利用の黎明期には、現在のようなブロードバンド接続はなく、自宅から ISP が用意した中継設備(アクセスポイント)に電話をかけて、必要なときだけ通信を行なうダイヤルアップ接続が主流でした。電話をかけると、距離・時間に応じて電話料金がかかるので、大手の ISP では利用者が電話料金をなるべく節約できるように、全国各地にアクセスポイントを設けていました。アクセスポイントは、利用者からの電話を受けると IP アドレスを割り当てて、インターネットに接続します。このときに利用する IP アドレスは、アクセスポイント毎にある程度まとめてプールされていたのです。アクセスポイントは各都道府県に一から数ヵ所設置されていたため、おおむね都道府県レベルの位置を IP アドレスから調べることができました。
その後発展したブロードバンド接続でも、都道府県毎に IP アドレスをプールする設計を引き継いでいたため、都道府県レベルで位置を調べることは可能でした。しかし最近になって、このような状況が崩れてきています。
原因のひとつは、従来のネットワーク構造に依らないサービスの増加です。モバイル接続など全国単位で提供されるサービスでは、IP アドレスを地域毎にプールするのではなく、ひとまとめに管理している場合があります。こうしたサービスでは IP アドレスと位置の対応が取れません。
また、IPv4 アドレスの枯渇の影響もあります。サービスに使える IPv4 アドレスが足りなくなったため、個々の利用者にグローバル IP アドレスを割り当てず、一箇所に集約した装置にグローバルアドレスをまとめる、CGN(Carrier Grade NAT)・LSN(Large Scale NAT)と呼ばれる方式が増えています。この方式だと、全国どこからでも同じ IP アドレスが使われますので、位置の判定は不可能です。
さらに、IP アドレスの用途変更や移転といった事情もあります。実は、IP アドレスと位置の対応情報は、公式に公開されているものではなく、特定の企業が独自に調査しているのです。よって、ISP の都合で IP アドレスの利用位置を変えたり、IP アドレスを別の ISP に移転したりしても、それがすぐに反映されるとは限りません。ですから反映前に位置を特定しようとすると、移転前の場所と判定されてしまいます。最近では IP アドレスが国をまたいで移転されることもあり、判定した位置が国レベルで間違っているということも起こりえます。
このように、IP アドレスと位置の関係はすでに崩れてきており、この先さらにひどくなりそうです。位置を特定するために IP アドレスを使うことは、もはや避けるべきです。しかし、コンテンツの権利獲得の都合などで、どうしても IP アドレスを使って利用者の所在国を判定しなければならない場合もあるかと思います。その場合は、誤判定があることを前提に、利用者の申告にもとづいて位置情報を修正するような手順をあらかじめ用意しておく必要があるでしょう。