IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます。
IIJ.news vol.149 もくじ
- ぷろろーぐ「年の暮れ」 鈴木 幸一
- ベルリン・フィルとの対話
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ソロ・チェロ奏者/メディア代表 オラフ・マニンガー氏
ベルリン・フィル・メディア 取締役 ローベルト・ツィンマーマン氏
IIJ 代表取締役会長 鈴木 幸一- IT Topics 2019
- 情報化社会の真の幕開け
- IoT
- モバイル
- コンテンツ配信
- クラウド
- ネットワーク
- データセンター
- グローバル
- ヘルスケア
- セキュリティ
- 人と空気とインターネット: すでに始まっている新たなプラットフォームを巡る争い (浅羽 登志也)
- Technical Now:
- IIJ GIO移行ソリューション
- IIJフレックスモビリティサービス
- インターネット・トリビア: IPv4アドレス「枯渇」のその後 (堂前 清隆) ※この記事で掲載
- グローバル・トレンド: 個人情報保護法施行後のシンガポール
それぞれの記事はIIJ.news PDF版でお読み頂けます。
インターネット・トリビア: IPv4アドレス「枯渇」のその後
2011年2月に「IPv4 アドレスが枯渇した」というニュースが流れたことを覚えていらっしゃるでしょうか。当時は「インターネットの危機」のような扱いで大きな騒ぎとなりました。しかしインターネットは、今もおおむね平穏に利用されています。いったいどういうことでしょうか?
そもそもの騒ぎの原因は、これまで使われてきた通信方式「IPv4」で定められているアドレスの数が足りないことです。インターネット上では個々のコンピュータが異なる IP アドレスを使うことでお互いを識別するため、IP アドレスが足りなくなると、インターネットに新しいコンピュータを接続できなくなります。
IP アドレスは、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)という組織が全体を管理し、それを各大陸レベルの RIR(Regional Internet Registry)、そして国毎の NIR(National Internet Registry)に分割して割り振りし、NIR が ISP や利用者に IP アドレスを割り当てるようになっています。利用者が新規に IP アドレスを必要とする場合、未使用のアドレスを順次割り当てていましたが、この「未使用の在庫」が IANA からなくなったというのが2011年の「IPv4 アドレス枯渇」でした。実際には、RIR や NIR、各 ISP に多少の在庫があったため、利用者向けの割り当てがすぐに止まることはありませんでした。ただ、IANA に在庫がない以上、「真の枯渇」がいずれ訪れることは避けられません。
あれから7年が経過しましたが、この間も新規の IPv4 アドレスの需要は衰えていません。そうした需要に応えつつ、「真の枯渇」が来る時期を少しでも遅らせるためのさまざまな工夫がなされています。
一つは IP アドレス節約技術の導入です。原則としてインターネット上のコンピュータは一台一台、異なる IP アドレスを使う必要がありますが、一部の用途であれば一つの IP アドレスを複数台で共有することも可能です。例えば、従来は各家庭が一つずつ IP アドレスを利用していたものを、複数の家庭で同じ IP アドレスを使うように変更すれば、IP アドレスの利用を減らすことができます。
もう一つの工夫が IP アドレスの利用効率化です。IPv4 アドレスはルーティング(通信の中継)を効率化するために、ある程度まとまった数を一度に割り当てることが一般的でした。これを改めて、細かくルーティングを行なうことで、IP アドレスの無駄を減らそうという試みです。
また、初期にインターネットの利用を開始した大学や企業は、歴史的経緯から実際の利用台数に比べて極端に多い IP アドレスを割り当てられていることがあります。このような IP アドレスを別の組織に移転して有効活用することも行なわれています。IP アドレスの新規割り当てが制限されるなか、大規模な事業者は IP アドレス確保を移転に頼っているのが実情です。
このような工夫により、IPv4 アドレスの「真の枯渇」は先送りされています。しかしこれらの取り組みも万能ではありません。IP アドレス節約技術は、家庭用インターネットなどクライアント側には適用可能ですが、サーバに適用することは困難です。また IP アドレス節約技術を利用したことで、家庭内の IoT デバイスをインターネット経由で操作するための手順が複雑になるなど、インターネットの利便性そのものを低下させる一因となっています。さらに、細かなルーティングによる IP アドレス利用効率化は、インターネット上で流通する経路情報(ルーティングのための情報)を増大させます。経路情報が増えることは、ネットワークの基幹ルータの負担増大につながります。
IP アドレスの移転についても、移転にともなうコストが事業者の負担となっているほか、いずれは移転可能な IP アドレスも「枯渇」するため、持続的な解決策として考えることは困難です。
こうした問題を抱えながら「延命」されているのが現在の IPv4 インターネットの姿です。普段利用している範囲では「IPv4 アドレス枯渇」の影響を感じることはあまりないかもしれませんが、IPv6 への移行という抜本的な対策を取る必要性は、ますます高まっています。