ついにIIJバックボーンが地球を一周します

IIJバックボーン
IIJバックボーン

先日プレスリリースでお知らせしたとおり、IIJはイギリスに「Londonデータセンター」を開設、そして、日本・アメリカからインターネット回線を接続し、IIJバックボーンの一部としての運用を開始しました。IIJは以前からアメリカ本土にもIIJバックボーンを張り巡らせており、さらに、加えてヨーロッパにまで回線が伸びたことで、バックボーンが世界を一周したことになります。

……なんてプレスリリースのような文章を見ただけでは、いったい何がどうなったのかピンときませんよね?実は私もです。そこで今回のてくろぐでは、まさに今回ロンドンにまでネットワークを繋ぎに行っていた「バックボーンの中の人」に直撃して、私自身よくわかっていない部分を教えてもらいました。以下、インタビュー形式でご覧ください。(文章はインタビューを元に再構成しています)

  • 緑色: てくろぐ執筆者 (堂前)
  • 青色: バックボーンの中の人

ヨーロッパにバックボーンが伸びる意味

ヨーロッパにバックボーンが伸びたんですよね!

はい、London データセンター内にIIJが運用するPOP1を設置して、IIJバックボーンの一部として運用します。日本との間は、ロシア周りの回線と、アメリカ東海岸のIIJ POP(NewYorkとAshburn)経由で2経路の、合計3経路で接続しています。

IIJでは以前からアメリカ本土に5カ所のPOPを設置していて、「IIJ自身が運用するバックボーンネットワーク」は、日本だけでなくアメリカにも存在しました。これがさらに拡張されてヨーロッパに到達した、というのが今回のプレスリリースの内容です。

やっぱり、アメリカとかヨーロッパって重要なんですか?

重要ですね。IIJの日米バックボーンの統計情報を見ていると、国内の利用者が海外に設置されたサーバに存在するコンテンツにアクセスしている様子がうかがえます。なんだかんだ言ってインターネットの中心はまだまだアメリカですし、日本人が見ているコンテンツであってもサーバがアメリカにあるケースは少なくないんですよ。

ヨーロッパでも多くのトラフィックがやりとりされていますね。たとえば、ロンドンにあるIX、LINX2ではピーク時で1.5Tbps近くのトラフィックが交換されています3。ロンドンはヨーロッパ内でもフランクフルト・アムステルダムと並んで世界有数のトラフィック集積地なんです。

いままでIIJはヨーロッパにはバックボーンを伸ばしていなかったので、ヨーロッパ方面のトラフィックはアメリカ本土のPOPでヨーロッパのISPと接続したり、他の大きなISPに中継してもらったりしていました。ところが、このアメリカPOPのトラフィック情報を見ていると、ヨーロッパ方面のトラフィックが案外多くて。だったら、アメリカを経由するのではなく、IIJが直接ヨーロッパまで回線を引いてトラフィックを交換した方が効率的ではないかと考えたのです。

効率的……うーん。

そうですね。ちょっと話を飛ばしすぎたかもしれません。それでは、まず、日本のISPにとっての海外バックボーンの意味を簡単に整理してみましょう。

日本のISPにとっての海外バックボーン

ええと、日本では1000社以上のISPが営業しているという事を聞いたことがあります。でも、この中で海外バックボーンを持っているところって、少ないんですよね?

はい、あまり多くありません。キャリア系の各ISPはそれぞれ国際バックボーンを持っているようですが、それ以外のISPではごく少数のようです。日本と海外をつなぐインターネット回線という意味では、海外のISPが日本向けに回線を引いているケースもあります。

海外バックボーンA/B

たとえば、日米の海外バックボーンを持っているISPが、アメリカのISPと通信する場合を考えます。日本国内からアメリカ本土までは、そのISPの海外バックボーンを使ってトラフィックが運ばれ、アメリカ本土のPOPでアメリカのISPと接続します。(パターンA)これはわかりやすいですね。

海外バックボーンを持っていないISPでも、もちろんアメリカのISPと通信をすることは可能です。どうしているかというと、日本国内で、海外バックボーンを持っているISPと接続して、自ISPのトラフィックを代わりに運んでもらっているんですよ。(パターンB)こうすることで、海外バックボーンがなくても通信を行う事ができますが、代わりに中継してもらうISPにその費用を支払う必要があります。

IIJは日米バックボーンがあるので、このパターンAに相当しているんですね。

はい、そうです。では、パターンA「従来のIIJ」がヨーロッパのISPと通信する場合を考えてみましょう。これには二つのケースが考えられます。

海外バックボーンC/D

一つは、ヨーロッパのISPが海外バックボーンを持っていて、アメリカにPOPを構えている場合。(パターンC上)これだと、アメリカ本土でヨーロッパのISPと直接接続できるので単純です。

一方、通信相手のヨーロッパのISPがアメリカまでの海外バックボーンを持っていなかった場合。(パターンC下)この場合は、アメリカとヨーロッパの間に海外バックボーンを持っている別のISPに中継してもらうことで、通信が成立します。

そして、「現在のIIJ」はというと……

パターンDのように、日本から直接ヨーロッパまで海外バックボーンが伸びているので、ヨーロッパのISPともヨーロッパ内で接続できるようになりました。別のISPに中継をしてもらう必要がなくなったのです。ところで、このパターンDの構成には、実はもう一つ大きなメリットがあるのです。

遅延時間のイメージ
遅延時間のイメージ

パターンCのように、アメリカ本土を経由してヨーロッパへ向かう場合、トラフィックが地球を2/3程ぐるっと回り込みます。そうすると。太平洋~アメリカ大陸横断~大西洋で、だいたい260ミリ秒程度の遅延時間がかかってしまいます。これに対して、今回IIJが運用を開始した、東京~ロンドンの回線は、ロシアを経由することで随分距離が短くなり、遅延時間も180ミリ秒程度に抑えられています。つまり、ヨーロッパ直結のバックボーンが開通したことで、遅延時間が3割程度軽減されるのです。

他のISPに中継してもらわなくても良くなった上に、遅延時間も短くなると。これは利用者にも大きなメリットですね。「直接ヨーロッパまで回線を引いた方が効率的」という事がようやく腑に落ちました。

もちろん、こういう海外バックボーンを運用するためには相応のコストがかかります。でも、コストさえかければ海外バックボーンを運用できるというわけではないんです。通信回線自体は費用を支払えば開通させることが出来ますが、いざアメリカなりヨーロッパなりに上陸したとして、現地のISPと接続できるかというわけではありません。ISP同士の接続にはいくつかの形態がありますが、お互いが対等な立場で接続する「ピアリング」を行うためには、ISP同士の間で接続条件を合わせるための交渉が必要になるからです。IIJは昔から多くの海外ISPと接続し、日本のお客様との橋渡しをしてきた経緯があるため、今でもさまざまなISPとよい関係が築けています。このような経験を生かして、様々な国のISPとの相互接続を広げて行きたいと考えています。

海外回線へのこだわり

まず日米の回線について説明しましょう。日米間の回線は太平洋を横断する海底ケーブルを使っているのですが、海底ケーブルというのは非常にトラブルが起こりやすいものです。3.11のような地震があればケーブルが切れてしまったりします。そして、一度トラブルが発生すると、なかなか回復しません。ひどい場合は数ヶ月間復旧しないと言うこともあり得ます。

トラブルがあったからと言って海外向けの通信を途絶えさせるわけにはいかないので、予防策として複数のルートの回線を用意しています。ところが、日本とアメリカを繋ぐ回線はルートが限られていて、アメリカ側の陸揚げポイントはいくつかあるのですが、日本側はそれほど分散していません。具体的には、東日本に陸揚げされている太平洋北回りルートと、関西に陸揚げされている南回りルート、合わせて7種類です。それをどう分散して効率よく使い分けていくのかを考えて設計しています。

太平洋横断ケーブル(日本に陸揚げされているもの)

  • Japan-U.S. Cable Network (JUS) 北回り・南回り
  • Tata TGN-Pacific 北回り・南回り
  • Pacific Crossing-1 (PC-1) 北回り・南回り
  • Unity/EAC-Pacific 南回り

※日米間に敷設されているケーブルの一覧であり、IIJがこのすべてのケーブルを利用しているわけではありません。4

日本側で東京・大阪のPOPにつながっているのは何となくわかるのですが、アメリカ側にも沢山POPがありますね。

基本的には、アメリカ本土でトラフィック交換の多い場所にPOPとデータセンタを展開しています。日本とアメリカのスケールを比べると、丁度カリフォルニア州に日本の国土がすっぽり入ってしまうぐらいですよね。アメリカ国内を横断するだけでも、日本の東京~大阪とは比べものにならないぐらいの遅延が発生してしまいます。アメリカの西海岸で複数箇所に接続拠点を設けておかないと、西海岸のトラフィックが東海岸周りで流れて来てしまうケースがあって……その場合アメリカ大陸往復分の遅延が余計にかかってしまい、遅延時間がとても大きくなってしまうのです。

なるほど。それではヨーロッパ方面については。

ヨーロッパ向けは、さっきも言ったとおりロシア周りの回線を開設したことが、遅延時間の短縮効果という点で大きいですね。ヨーロッパ向けのトラフィックのメインはこの回線に期待しています。ただ、このルートはユーラシア大陸を突っ切って敷設されている5のですが……やはり長距離なのでトラブルが怖いです。そこでアメリカ東海岸からも大西洋横断でロンドンまで引き込み、万が一に備えています。

今回東海岸〜ロンドンは2回線あるんですが、これってどうしてなんでしょう?ロシア周りとのバックアップだとすると、大西洋は1回線でよいようにも思えますが。

それは、ヨーロッパ〜アメリカ間のトラフィックを考えてのことです。もし、この間の回線が1回線だけで、その回線に障害が発生してしまった場合、ヨーロッパとアメリカの間のトラフィックは日本を経由して運ばれることになります。大西洋横断で80ms程度の遅延だったものが、世界を反対回りになったために360ms程度の遅延になるわけですから、インパクトがとても大きいでしょう。それを回避するために、この区間に2回線引いて冗長性を確保しているのです。

IIJの海外バックボーン、今後の展開は?

今回のところは「まずはロンドン」という感じですね。他にもトラフィックの集積地になっているところは世界中にいくつかあるので、そういったところにもPOPを開設してゆきたいと思います。

実はIIJが現在持っている海外接続回線はアメリカ・ヨーロッパだけじゃないんですよ。バックボーンマップはあくまでIIJの拠点(POP)間を接続するネットワークを掲載しているので、今回のロンドンのように現地にPOPが設置されないと掲載されません。ですが、現地にPOPを開設せずに直接国際回線で海外のISPと接続しているところがいくつかあります。そういった接続も今後増やしていきたいと思っています。

バックボーン自身の強化ももちろんですが、このバックボーンを使ってよりよいインターネットを提供し続けていけるように、これからもがんばっていきたいと思っています。

はい。色々ありがとうございました。

テープカット
世界一周を記念して社内でささやかにセレモニーがありました
(カットしているのはネットワークケーブルではありません)

本日の関連コンテンツ

  1. Point of Presence。バックボーンネットワークを構成する拠点。 []
  2. London Internet Excange []
  3. LINX Aggregated Traffic Statisticsより。 []
  4. 余談ですが、世界の海底ケーブルがまとめられているSubmarine Cable Mapは見ていて大変楽しいです。 []
  5. 陸上ケーブルのため、先ほど紹介したSubmarine Cable Mapには掲載されていません。 []