IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます

IIJ.news vol.162 もくじ

iijnews162

  • ぷろろーぐ「がんもどき」 鈴木 幸一
  • Topics (東日本大震災から新型コロナウイルスへ)インターネットと危機管理の10年を振り返る
    • “禍”は忘れた頃にやってくる
    • 災害に強い、最適なネットワークを目指して
    • 企業が事業を止めないための取り組み
    • サービスを止めないための心構え~ルールベースではなく、プリンシプルベースで考える
    • 現場の声を伝えたい「今週のコロナニュース」
    • モバイル通信を活用した被災地支援
    • IoT で水害対策
    • 安定したインフラを目指して これからの時代のデータセンター
    • 企業のBCPをトータルで支援する セコム安否確認サービス
  • IIJ Research となりの情シス
    • 2020年、情シスの皆さんの「頑張ったこと」
  • 人と空気とインターネット: 成熟するアナログ 進化するデジタル
  • インターネット・トリビア: 災害とスマートフォンの緊急速報 ※この記事で掲載
  • グローバル・トレンド: イギリスの「サポートバブル」

それぞれの記事はIIJ.news PDF版でお読み頂けます。

インターネット・トリビア: 災害とスマートフォンの緊急速報

スマートフォンの緊急速報についてはこのblogで度々取り上げています。本記事は、冊子で発行している広報誌IIJ.news vol.162向けに、現在に至る経過を改めて抜粋したものです。

この記事掲載時点での最新の情報は「格安スマホ」MVNOと緊急速報・災害時伝言板 (2018年度版まとめ)です。合わせてご覧下さい。

地震・水害・その他の災害や緊急事態の際、皆さんのスマートフォンに届く緊急速報は、危険を避けるための大切な情報源になっていると思います。今回のトリビアでは、この緊急速報メールを届ける仕組みについてご紹介します。

現在、日本国内で利用されているスマホの多くは、地震・津波を即時に知らせる「緊急地震速報」、弾道ミサイルなどの発射情報を伝える「J-ALERT」、そして、大雨などの際に避難所の情報を知らせる自治体の災害情報の三つを受信できます。

携帯電話で緊急地震速報が受信できるようになったのは2008年でした。気象庁が全国に設置した地震計で地震の発生を検知し、それを携帯電話会社のシステムを通じて、揺れが予測される地域にある携帯電話端末に伝え、警報音を鳴らすというものです。

地震が発生してから揺れが到達するまでの極めて短時間に多数の携帯電話に警報を伝えることは、それまで使われていた通常のデータ通信では困難でした。そこで、短時間に警報を送信するために、CBS(Cell Broadcast Service)や BC-SMS(BroadCast SMS)といった通常の通信とは異なる仕組みをベースにしたシステムが開発されました。これらは”Broadcast”と書かれている通り、情報を一方的にばらまくものです。一度の送信で電波を受信できる全ての携帯電話に通知が届くため、時間の短縮が可能になります。

CBS・BC-SMSは3G 時代の携帯電話向けの仕組みでしたが、その後、導入されたLTE でもETWS(Earthquake and Tsunami Warning System)として同様の仕組みが取り入れられています。

また、緊急地震速報を配信する仕組みは、自治体向けにも開放されています。各自治体が携帯電話会社の「緊急速報サービス」を利用することで、その地域で利用されている携帯電話に向けて災害情報など独自のメッセージを送信できます。さらに2014年には、消防庁が運営する「全国瞬時警報システム」(J-ALERT)とも連携が開始され、災害だけでなく、国外からの武力侵攻などに関する警報も同じ仕組みで伝えられるようになり、現在の「緊急速報」の枠組みができあがりました。

これらの緊急速報は、立て続けに災害が発生したことで、大きな注目を集めるようになりました。一方、こうした高度なシステムの整備が日本だけで突出して進んだことによる弊害も現れました。

2014年頃から「SIMフリースマホ」として世界共通仕様のスマホが国内に流通するようになると、これらのスマホでは日本の緊急速報を受信できないという問題が発生したのです。特に2017年に近隣国が立て続けに弾道ミサイルを発射した際には、国会でも対策が議論されました。

こうした事態を受け、携帯電話事業者・スマホメーカも対策に乗り出し、2018年にはSIMフリースマホで使われる「Android」に緊急速報を受信する機能が追加されました。そして現在では、日本国内で流通するほぼ全てのスマホで、緊急速報を受信できるようになっています。

しかしそれでもなお、「周りのスマホは緊急速報を受信しているのに、自分のスマホは受信しなかった」という経験をされた方がいらっしゃるかもしれません。先に述べた通り、緊急速報は通常の通信とは異なり、警報をいっせいにばらまくという方法をとっています。そのため、スマホの動作状況によって、警報を受信し損ねることがあるのです。これは契約中の携帯電話会社に関係なく発生するもので、短時間に多数の警報を送信するためにはやむを得ない制限となっています。