IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます

IIJ.news vol.144 もくじ

iijnews144

  • ぷろろーぐ「観葉植物園」 鈴木 幸一
  • [特別対談] 人となり
    日本電産株式会社 代表取締役会長兼社長 永守 重信 氏
    IIJ 代表取締役社長 勝 栄二郎
  • Topics 「IT Topics 2018」
    • Topic 1 モバイル
    • Topic 2 IoT
    • Topic 3 ネットワーク
    • Topic 4 クラウド
    • Topic 5 セキュリティ
    • Topic 6 コンテンツ配信
    • Topic 7 グローバル
    • Topic 8 バックボーン
    • Topic 9 フィンテック
    • Topic 10 ヘルスケア
  • 人と空気とインターネット: マス・カスタマイゼーションの時代
  • インターネット・トリビア: 手軽な無線システムとISMバンド ※この記事で掲載
  • グローバル・トレンド: お薦めのレストラン
  • ライフ・ウィズセーフ: いたちごっこ

それぞれの記事はIIJ.news PDF版でお読み頂けます。

インターネット・トリビア: 手軽な無線システムとISMバンド

スマートフォンやノートパソコンの無線LANなど、通信に「電波」を使う機器が身の回りにたくさんあります。電波は、同じ時間、同じ場所(電波の届く範囲)、同じ周波数の電波を複数のシステムが使おうとすると、互いに影響を及ぼし合い、正常な通信ができなくなる性質があります。これが混信です。

このような障害を未然に防ぐために、各国政府は電波の利用について免許制度を設け、免許を受けたシステム・利用者以外が電波を利用することを禁じています。また、免許制度の前提として、どの周波数をどのような目的に利用するかをあらかじめ計画し、広く公開しています。日本では総務省がこのような調整の役割を担っています。

日本ではテレビやラジオの放送局、業務や趣味のために使われる無線局が、免許のもとに運用されるシステムとしてよく知られています。また、この免許制度はスマートフォンにも及んでおり、通信・通話に用いられる3G・LTEの電波利用は、国からの免許のもとに行なわれる必要があります。ただし、スマートフォンの利用者全員が個別に免許を受けることは現実的ではないため、実際には携帯電話会社(キャリア)が包括して免許を受けるかたちになっています。

このように、電波の利用には免許は欠かせないものですが、実はいくつか免許を受けずに電波を利用できるケースもあります。一つは電波が非常に弱く、周辺に与える影響が限定的な場合。もう一つは、法令で「免許が不要」と明示された無線システムの場合です。後者の無線システムは用途によっていくつか種類があり、なかでも特徴的なのが「ISMバンド」を使う無線システムです。

ISMとは「Industrial, Scientific and Medical」(産業・学術・医療)の頭文字です。例えば、電波を使って食品を加熱する電子レンジのような器具や、無線での電力供給のような非通信機器(ISM機器)が使う電波(周波数)がISMバンドと呼ばれています。

ISMバンドはISM機器だけでなく、いくつかの通信用途にも使われています。代表的なのが、無線LAN(Wi-Fi)や Bluetooth。また、最近話題のLPWAに分類される無線システムのいくつかもISMバンドを使っています。ISMバンドで運用されるこれらの無線システムは、個別に免許を受けることなく利用できます。その一方で、ISM機器やその他の無線システムから電波の影響を受けることを許容しなければならないという制約もあります。

ISMバンドの一つである2・4GHz帯は、家庭にある電子レンジで利用されており、同じ周波数帯を利用する無線LAN・Bluetooth は、電子レンジの電波の影響により、通信に支障が出ることが知られています。また、無線LANと Bluetooth が相互に干渉を起こすことを想定して、スマートフォンなどでは干渉を回避するための特別な仕組みが導入されています。さらに、利用する周波数帯によっては、その他の電波利用機器に対する配慮が求められることもあります。ISMバンドである5GHz帯は気象レーダーでも利用されているため、同じ5GHz帯を利用する無線LAN機器は、一部の周波数を利用する際にいきなり電波を発射するのではなく、周辺の電波の受信に専念し、付近にレーダーが存在しないことを確認したうえで電波を出すDFSという動作を行ないます。

このように、ISMバンドを利用する無線システムは免許不要で手軽に利用できるように見えますが、手軽さと他のシステムとの共存を実現するために、複雑な仕組みを内包しているのです。