IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.newsで連載しているコラム「インターネット・トリビア」と連動しています。
コラムの前半部分はIIJ.news vol.120(PDFで公開中)でご覧下さい。

「安価」に「常時接続」が利用できるブロードバンド回線は日本のインターネットの普及に大きく貢献しました。では、ブロードバンド回線が従来からある「専用線インターネット接続」を置き換えるのかというと、そのようなことはありません。後半ではブロードバンド回線にまつわる「制限」を紹介します。

安価なブロードバンド回線の制限事項

ブロードバンド回線の最大の特徴は安価なことです。専用線も、ブロードバンド回線も、同じように通信回線(光ファイバーや導線)を通信事業者の局舎から利用場所まで引いています。なのに利用料金に大きな差が出るのは、ネットワークの作り方の違いからです。

設備の共用

高価な専用線を含め、ほとんどの通信回線は、始点から終点までの区間のどこかで他の通信回線と設備を共用しています。一部の設備を共用する事によって、1回線あたりのコストを引き下げるのが目的です。ブロードバンド回線では、専用線に比べると共用する部分が大変多くなっています。

NTT東西のフレッツ・光ネクストを例に挙げると、利用者宅から出た光ファイバーは、最寄りのNTTビルにたどり着くまでのあいだに最大8回線分の集約があり、NTTビル内でも4回線が集約されます。結果的に、NTTビル内の機器では32回線分が一つにまとめられて接続されています。こうすることによって、電柱上の光ファイバーが効率的に利用でき、また、ビル内の機器に繋ぎ込む光ファイバーを省略することで、コストを大幅に下げることができます。

接続先が限定

専用線の場合、通信事業者の中継網を経由した後は、再び分岐され、接続先の拠点に光ファイバーで引き込まれます。本社と支店のような拠点間通信を行う場合は、専用線の起点と終点をそれぞれの拠点に設定します。専用線をインターネット接続に用いる場合は、終点をISPのNOC(ネットワークオペレーションセンター)に引き込みます。

ところが、ブロードバンド回線では一般的にはこのように接続先(対向)を自由に選ぶことができません。フレッツ・光ネクストの場合、接続先は必ずNGNと呼ばれるNTT東西が運用する共用ネットワークになります。そして、インターネット接続を利用する場合は、共用ネットワークであるNGNに乗り入れているISPを経由する必要があります。Webの広告や、家電量販店で「フレッツ・光対応ISP(プロバイダ)」と書かれているのは、このようにNGNに乗り入れているISPのことを指しています。

速度保証無し

このように設備が共有されていたり、共用ネットワークを利用しているため、ブロードバンド回線では通信速度の制御が十分には行えません。また、共用部分の設備はブロードバンド回線利用者全員が同時に最大限の通信を行った場合に比べて、少ない量で準備されています。

ブロードバンド回線では「最大○○Mbps」「ベストエフォート」等の言葉が使われています。ここで提示されている通信速度の表記はあくまで末端に設置されている通信機器の仕様上の速度であり、共用部分の混雑によっては必ずしも表記の速度が出るわけではないという点も、専用線と大きく異なるポイントです。

ほどほどの安定性

常時接続を謳う通信回線であっても、機器のメンテナンスや不慮の事故のために通信が止まってしまうことがあります。専用線の場合、故障が発生しても通信が止まらないように、設備を二重化する事ができます。また、メンテナンスの際にも事前に通信事業者から利用者に作業の相談が行われ、できるだけ業務に影響が及ばないように調整がされます。

ところが、ブロードバンド回線では設備の二重化は必要最低限で、機器の故障が通信停止に繋がりやすい仕組みになっています。また、メンテナンスの事前調整はなく、通信事業者側の都合で決められたタイミングで作業が実施されます。さらに、一般的には故障時の問い合せ受付窓口も24時間ではありません。(追加費用を支払うことで、24時間対応窓口を利用できる場合もあります)

家庭用ではあまり気にならないかもしれませんが、業務用として考えると、メンテナンスの時間を調整できないのは大変困ります。また、故障時の修理対応の手配についても、業務の内容に応じて考慮が必要になります。

うまく組み合わせて活用を

ここまで、ブロードバンド回線の制限について説明しました。これだけ見ると、ブロードバンド回線は不安なサービスであるかのように感じてしまいますが、実際にブロードバンド回線を引き込んで使ってみると、案外問題なく使えてしまいます。これらの制限事項は気にしすぎなのでしょうか?

確かに日本のブロードバンド回線は品質も高く、トラブルもさほどは多くないため、快調に動いているところを見ると慢心しがちです。ですが、ひとたびトラブルが発生した際には、ブロードバンド回線の仕組み上の弱点が露呈します。

  • 設備を共用する他の利用者の使い方によって、速度低下などの影響を受けることがある
  • 速度が低下した場合でも原因を追及することが困難
  • 速度が低下した場合でも保証がなく、改善は約束されない
  • トラブルが発生すると、復旧まで時間がかかる
  • 個別のトラブルについて、通信事業者からのサポートが手薄
  • トラブルは利用者自身が検出する必要がある。通信事業者からの連絡は無い
  • トラブルが発生する回線が大規模化する傾向(一度に多くの回線に影響が出る)

などなど、これらはブロードバンド回線の「コストを下げる仕組み」に起因することがほとんどです。

ブロードバンド回線を利用する場合、特に業務の一部に組み込む場合は、もし、何らかのトラブルが発生した場合に、それをどのように回避するかというプランをあらかじめ立てておくことが重要になります。