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格安スマホと「緊急地震速報」「防災情報」「Jアラート(ミサイル発射情報)」(2017年版) (2017.09.05掲載)
IIJmioのSIMでも緊急地震速報は受信できます
災害発生時、特に大きな地震の際にあちこちで鳴り響く「緊急地震速報」。緊急地震速報は携帯電話にも配信されているので、オフィスや教室、電車の中でスマートフォンやガラケーが一斉に鳴り響くところに遭遇した方も少なくないと思います。
この緊急地震速報に関してしばしば頂く質問に、「IIJmio(MVNO)のSIMカードを利用している場合でも緊急地震速報は利用できるのか?」というものがあります。結論から書くと、利用できます。
- IIJmioのSIMカードを利用していても、緊急地震速報は受信できます
- SIMの種別はデータ通信専用・SMS対応・音声通話対応(みおふぉん)いずれでも構いません
- ただし、利用しているスマートフォン本体が緊急地震速報に対応している必要があります
この記事では、緊急地震速報がどのように配信されているかについて、少し詳しく紹介してみたいと思います。
緊急地震速報「的なもの」
スマートフォンで利用できる「地震情報」(災害情報)にはいろいろなものがあります。配信の仕組みを説明する前に、そもそもどんな地震情報が配信されているのかをまとめてみましょう。
情報源による区別
まず、配信される情報を誰が作っているのかを見てみます。
- 気象庁 緊急地震速報
- 総務省消防庁 全国瞬時警報システム(J-ALERT)
- その他の防災研究機関・事業者の情報
- 各自治体の災害情報
最も一般的なものは、気象庁の緊急地震速報です。携帯電話だけでなく、TV放送に割り込んでくる速報も気象庁の情報を基にしています。最近では、地震以外の緊急情報(火山噴火・ミサイル発射・テロ発生など)を全国に伝えるための、J-ALERTというシステムもあります。
それ以外にも独自の地震情報を提供する研究機関や事業者があります。これらの情報は、気象庁のものとはタイミングや内容が異なる事があります。
また、各自治体も独自に防災情報や、避難情報を配信しています。これは自治体によって取り組みが大きく異なりますが、防災行政無線(屋外スピーカー)と同じ内容を配信していたり、避難所の情報や行方不明情報などより地域に即した内容が想定されているようです。自治体によってはJ-ALERTの情報を再配信している場合もあります。
配信方法による区別
次に、それらの情報を配信するための仕組みを、具体的なサービスと合わせて紹介します。(サービスは代表的なものを取り上げています)
配信サービス(一例) | 配信手段 | 配信情報 |
---|---|---|
エリアメール(docomo)・緊急速報メール(au・SoftBank・Y!Mobile) | ETWS | 気象庁 緊急地震速報・J-ALERT |
Yahoo!防災速報 | プッシュ通知(Android・iOS)+専用アプリ | 気象庁 緊急地震速報・その他機関の情報 |
ゆれくるコール | 気象庁 緊急地震速報 | |
@quake_alert (IIJ) | 気象庁 緊急地震速報 | |
@earthquake_jp | 気象庁 緊急地震速報・その他機関の情報 | |
各自治体の防災情報メール | 自治体発の防災情報など |
携帯電話・スマートフォンで「緊急地震速報」というと、一般的には「エリアメール」(docomo)、「緊急速報メール」(au、softbank、Y!Mobile)を指します1。このサービスでは主に気象庁の緊急地震速報と、J-ALERTの情報が配信されています。配信にはETWSという仕組みが使われています。(ETWSについては後で詳しく説明します)
それ以外に、スマートフォンの場合、専用のアプリをインストールするタイプの防災情報もあります。これらのアプリはAndroid・iOSのプッシュ通知機能を使っています。災害時には警告音と共に画面に情報が表示されるため、エリアメールと混同しがちですが、技術的には全く異なるものです。表示される情報は気象庁の情報に、他の防災機関の情報を追加していることもあるようです。
また、Twitterでも地震情報が配信されています。とても沢山のアカウントがありますが、例えばIIJが提供する@quake_alertでは、気象庁の情報を基に、日本語・英語・フランス語・韓国語のTweetを発信しています。
自治体が発信する防災情報は、通常のe-mail(電子メール)を使って送信されるものが多いようです。この場合、あらかじめ自分のメールアドレスを自治体に登録しておく必要があります。なお、一部の自治体では自治体独自の情報配信にもエリアメールを使っている場合もあります。それぞれの自治体がどのような方法で情報配信をしているかは、気象庁が調査した一覧が参考になります。
エリアメールの配信の仕組み
少し前説が長くなりましたが、肝心の「エリアメール」配信の仕組みについて説明します。同様のサービスは各携帯電話事業者が提供していますが、IIJmioはdocomoの通信網を利用したMVNOですので、docomo網での送信の仕組みについて取り上げます。
「エリアメール」を配信するための仕組みは、ETWS (Earthquake Tsunami Warning System…地震・津波警報システム)として世界標準規格が定められています。この標準規格、元々docomoが独自に開発した2仕組みですが、その後3G(W-CDMA)や、LTEの規格を管理している団体(3GPP)に正式に採用され、標準規格となりました。au3、softbank、Y!Mobile4の「緊急速報メール」でも同じETWSが利用されています。
ETWSは特別扱い
ETWSは、特定の地域にいる人全員に、可能な限り遅延無く情報を届けるという点に特化した仕組みになっています。そのため、ETWSの通信は通常の通信とは全く異なる仕組みが用意されています。
通常の通信は、音声通話にせよ、パケット通信にせよ、携帯電話の基地局は自分と通信している端末(スマートフォン)を一台一台区別して、基地局と端末が相互に通信しています。しかし、ETWSではそのような区別は行われず、電波が届く端末すべてに対して相手を特定せず、
データの配信経路
基地局と端末の間だけでなく、情報源から基地局の間までの配信経路もETWSでは特別な仕組みをもっています。
3G・LTEの携帯電話網の構成要素を図に表すと次のようになります。緑色がパケット通信を扱う設備で、水色が音声(回線交換)を扱う設備を示しています。5ETWSの通信はこのどちらも通らず、専用の設備(CBC…セル・ブロードキャスト・コントローラー)が、基地局を管理するMMEやRNCを直接駆動し、基地局から信号を送出します。また、この時に、どの基地局から信号を送出するかを制御することで、ETWSを届けるエリアをコントロールしています。
MVNOの視点から
この仕組みをIIJのようなMVNOの立場から見てみます。IIJmioのように「L2接続」を行っているMVNO事業者はPGWやGGSNという設備を用意してMNO(携帯電話事業者)と接続していますが、これはあくまでパケット通信のためのものです。この仕組みを使ってMVNO事業者がETWS信号の送出をコントロールすることはできません。
ですが、先に書いたとおり、ETWS信号は相手端末を区別せずに一方的に送りつけられます。区別をしないというのは、端末(SIMカード)がMNOの契約であるか、MVNOの契約であるか、判別していないということです。また、SIMカードの種別(データ通信専用・SMS対応・音声通話対応)によって区別されることもありません。
結局、MVNOのSIMカード利用者であっても、MNO(携帯電話事業者)のSIMカード利用者と同じようにETWSの信号を受け取れると言うことになります。6
AndroidやiOSのプッシュ通知は、ETWSのような特別扱いではなく、あくまで通常のパケット通信として行われます。ですので、ETWSに比べ情報が通知されるのが遅くなる可能性があります。
警告音を鳴らすかどうかは端末次第
このような経路を辿って端末(スマートフォン)まで伝わるETWSの信号ですが、この信号に反応して警告音やメッセージを表示するかどうかは、実は端末によってまちまちです。
ETWSには様々な種類のメッセージ(地震・津波・テスト・その他)が規定されていて、どのメッセージに対してどのような反応をするのかのルールが端末の中に組み込まれています。逆に、このルールが全く書かれていないと、いくら信号を受信していても端末は沈黙したまま、と言うこともあり得ます。
せっかく地震の情報が届いているのに何もしないなどとは、日本に住んでいる身からすると不思議に感じます。ですが、そもそも全国に多数の地震計が設置され、そこから得られたデータを処理して瞬時に地震の到達情報を計算できるような高度なシステムをもっている国は日本以外になく、日本以外の携帯電話事業者でETWS信号を送信している事業者はありません。7ですので、日本以外の国で利用される前提で作られた端末では、ETWSのことを考慮していなくても仕方がないのかもしれません。
- docomoが販売するスマートフォン
- docomoは緊急地震速報に積極的になため、多くの機種で対応しています。
対応機種はdocomoのWebサイトに記載されています。これらの機種にIIJmioのSIMカードを取り付けた場合でも、緊急地震速報(エリアメール)を受信し、警告音が鳴ります。 - iPhone (SIMフリーを含む)
- iPhone (iOS)も標準のETWSに対応していますが、機種によって利用できる情報に違いがあることがAppleのサポート情報に掲載されています。なお、IIJmioのSIMカードを取り付けた場合は、iPhone 5c/5sで緊急地震速報が利用できることを確認していますが、iPhone 4/4S/5では利用できません。
- SIMフリーのAndroidスマートフォン
- 日本国内で販売されているSIMフリースマートフォンの多くは、海外向けに開発されたスマートフォンがベースになっています。このため、残念ながら、ほとんどの機種で緊急地震速報に対応していないものと思われます。冒頭で紹介した、プッシュ通知を利用したアプリなどを緊急地震速報の代わりに利用することをおすすめします。
2014/09/03訂正
初出時、iPhone 4以降とIIJmioのSIMの組み合わせで緊急地震速報が利用できると記載していましたが、iPhone 4/4S/5 では利用できませんでした。訂正いたします。(Twitterでのご指摘ありがとうございました)
さいごに
ここまで「緊急地震速報」がどのようにして実現されているかをまとめてみました。こういうものは、実際に警告音が鳴ってくれれば話が早いのですが、何しろ災害情報ですから、そうそうテスト信号も送られてきません。ましてや実際の災害は、です。すこしすっきりしないところもありますが、できれば緊急地震速報が活躍しないことを祈ります。
- 以後、このサービスについて「エリアメール」と表記します [↩]
- 3GPPのCBS(Cell Broadcast Service)を元に拡張した [↩]
- auのLTEではETWSが使用されていますが、3G(CDMA2000)では異なる方式が使用されています [↩]
- Y!Mobile(旧willcom)のPHSは独自方式です。 [↩]
- ここではVoLTEに関する要素は省略してます。 [↩]
- 規格上、ETWS信号は他の通信事業者の信号でも受信する事ができます。例えば、docomo(及び、そのMVNO事業者)のSIMカードを利用していても、auやSoftBankが送出した信号を受信することは可能です。その逆もあり得ます。 [↩]
- 筆者の調べた範囲では見つけられませんでした。もし、日本以外でETWSが運用されている事例をご存じでしたら、教えて下さい。 [↩]