IIJとクラシックコンサート配信
以前にも何度かこのblogでお伝えしたとおり、IIJは継続的にクラシックコンサートのインターネット中継に取り組んでいます。
- ついに本気を出した、IIJのネット中継サービス「マルチデバイスストリーミング/Live」(てくろぐ)
- HEVC over MPEG-DASHでクラシックコンサートを聴こう (東京・春・音楽祭)(てくろぐ)
これらの中継では、既報の通り「パソコンだけではなく、様々なデバイスに向けて配信する」「最新のプロトコルで配信する」などのチャレンジを行ってきました。これらのチャレンジは重要なもので、技術の蓄積のために大きな役割を果たしています。
「クラシックコンサート」を中継するということ
ところで、IIJが取り組んでいるのは「クラシックコンサート」の中継です。改めて「コンサート」というコンテンツに立ち戻ったとき、配信技術屋としていったい何ができるだろうか。そのようなことを考えた結果、たどり着いたのが「音」の表現。中でも「高音質」と「臨場感」です。
「高音質」というのは、文字通り「より良い音」のことです。最近ではハイレゾという言葉で注目されています。もう一つの「臨場感」は、たとえば「今まさにコンサート会場に居るような感覚」を再現することです。いままでのインターネット中継では、こういった「音」についての取り組みが不足していたのではないか?それがIIJの中継チームの出した結論です。
本日プレスリリースで発表した「DSDTM5.6MHzハイレゾ音源によるライブ・ストリーミング配信」は、そうした音についての取り組みの一つの結実です。
DSD5.6MHzハイレゾ中継
少し前から盛り上がりを見せている「ハイレゾ」は、高音質のデジタル音楽データや、それを再生するためのシステムを指す言葉です。一般的には、音楽用CDを基準にして、それよりも良い音が出せるものを「ハイレゾ」と呼びます。
ハイレゾにはいくつかの手法があるのですが、今回縁あってIIJが巡り会ったのは、DSD(Direct Stream Digital)と呼ばれる手法です。DSDはハイレゾ音源のダウンロードサービスなどで普及しつつある手法で、今回はこれをライブ中継(生放送)に適用することにしました。これは画期的なチャレンジです。
コンサート会場で収録された音源は、その場でDSD方式によりデジタル化されインターネットを介して視聴者のパソコンに配信されます。
通常のインターネット配信ならそのパソコンの中に内蔵されている音源チップでデジタルデータをアナログに変換し、ヘッドホンやスピーカーで視聴します。しかし、一般的なパソコンに内蔵されている音源チップはあまり性能が高くなく、十分な音質でスピーカーを鳴らすことができません。
そこで、今回の配信では、パソコン内蔵の音源チップを使うのではなく、パソコンにUSBで接続した専用のDAC1にDSDのデータをそのまま送り込み、ここで高音質なアナログ信号に変換します。
高音質な音楽を楽しみたい方向けに、このようなパソコン用DACは様々な機種が発売されています。2しかし、ライブ中継に利用できるソフトウェアは今までありませんでしたので、今回の実験のために新規に開発することになりました。
ドリーム・チーム
これらの取り組みは、DSDについての深い知見を持つ、KORG・ソニーの二大メーカー。また、録音&マスタリング・エンジニアの第一人者であるSaidera Paradisoのオノセイゲン氏の協力を得て実施されます。
また、配信するコンテンツについても、とてもすばらしいものに巡り会うことができました。以下、二つのコンサートを配信いたします。
東京春祭マラソン・コンサート vol.5 《古典派》~楽都ウィーンの音楽家たち
東京・春・音楽祭 2015の一環として開催されるコンサートです。曲目・出演者などは音楽祭のページに後日掲載されます。
- 配信日時
- 2015年4月5日(日曜日) 11:00~(終了予定:20:00)
サー・サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィル演奏会
ベルリン・フィルハーモニー・ホール(ドイツ・ベルリン)で開催されるコンサートを現地より中継いたします。
- 演奏曲目
- ベルリオーズ《ファウストの劫罰》全曲
- 管弦楽
- ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
- 指揮
- サー・サイモン・ラトル
- 独唱
- チャールズ・カストロノーヴォ(ファウスト)、ジョイス・ディドナート(マルグリート)、リュドヴィク・テジエ(メフィストフェレス)、フローリアン・ベッシュ(ブランデル)
- 配信日時
- ドイツ時間 2015年4月11日(土曜日) 19:00~(終了予定:21:40)
日本時間 2015年4月12日(日曜日) 2:00~(終了予定:4:40)
特設サイトをご覧ください
先に書いたとおり、今回の配信の視聴には、対応DACや専用のソフトウェアの用意が必要です。そういった情報を提供するための特設サイト DSD Live Streamingを本日オープンしました。
こちらのサイトでは、「そもそもどうしてDSDだと高音質なのか?」「DSD配信を視聴するために準備する機材」などの情報を、2月中旬より順次掲載してゆく予定です。また、ライブ中継が正しく視聴できるかどうかの動作確認のためのコンテンツも用意します。ご期待ください。
- Digital Analog Converetr [↩]
- DACがDSDに対応している必要があります。対応機種は、後日特設サイト DSD Live Streamingで公開いたします。 [↩]