IPv6接続の新しい方式?
本日もIPv6関連のお話です。先日プレスリリースで発表いたしましたが、7月21日より家庭向け(ブロードバンド回線向け)の新しいIPv6接続サービスが始まりました。
NTT東西の「フレッツ光ネクスト」回線に対応した「IPoE方式 (旧称:ネイティブ方式)」のIPv6サービスです。
いろいろな方法があってそろそろ皆さん混乱されているのではないかと思います。このblogでも、フレッツ光ネクスト PPPoE方式(トンネル方式)・IPv6仮想アクセスなど、家庭用IPv6接続サービスの紹介をしましたが、今回のはそれとどう違うの?という疑問はもっともかと思います。技術的な面からその違いを説明することもアリですが、今回は【試してみた】記事と言うことで、詳細は省き、IPoE方式のメリットとデメリットを並べておこうと思います。
メリット
- IPv6専用の機器が不要
- IPv6通信速度が高速 (下り最大概ね1Gbps)1
デメリット
- 「フレッツ光ネクスト」以外のフレッツサービスでは利用できない
- 申し込み手順が複雑(ISPへの申し込みだけでなく、NTTへのオプション申し込みも必要)
同じフレッツ光ネクスト対応のIPv6サービスでも、PPPoE方式(トンネル方式)では「IPv6トンネル対応アダプタ」、もしくはSEIL/x86のような対応機器を用意する必要がありました。しかし、IPoE方式(ネイティブ方式)では、そのような専用のアダプタなしにIPv6を利用できるようになります。NTT東西以外のブロードバンドルータを使っている場合でも「IPv6パススルー」機能があれば、そのまま利用可能です。
申し込んでみよう
しかし、申し込み方法が少々ややこしいのがIPoE方式の残念なところ。と言うことで、本日はこの申し込み手順をStep-by-Stepで紹介します。なお、事例はNTT東日本地域にある筆者宅です。
- フレッツ光ネクスト回線の契約
- NTT東西「サービス情報サイト」へのアクセス環境の準備
- 「フレッツ・v6オプション」の申し込み
- IIJmio FiberAccess/NFへの申し込み
ざっくり書くとこんな感じです。「あれ、IPv4の接続設定はするのに、IPv6の接続設定は行わないの?」と思ったあなた、鋭い。IPoE方式ではIPv6の為の接続設定は不要なのです!
以降、具体的な手順を紹介しますが、その前に重要な事が一つ。フレッツ開通時にNTT東西から書面で通知される「お客様ID(CAFで始まるID)」と「アクセスキー」を確認しておいてください。IPoE方式の申し込みではこのサービスIDが必ず必要になりますが、普段あまり使わないIDなのでもしかすると書面を無くしているかもしれません。その場合はNTT東西に再発行受けることができますが、書面が再度郵便で送られてきますので、しばらく時間がかかります。
1.フレッツ光ネクスト回線の契約
我が家はすでにフレッツ光ネクストを契約しているので、この作業は不要でした。
従来型のBフレッツや、フレッツ・光プレミアム(NTT西)をご利用の場合は、116に電話して光ネクストに契約を移行しましょう。集合住宅にお住まいの方や、NTTの設備の都合で光ネクストに変更できない場合は、IPoE方式は諦めてIPv6仮想アクセスをご検討ください。
ちなみに、我が家のネットワークはこんな感じです。本当は他にもごちゃごちゃ繋がっているんですが、主要なところはこの通り。ブロードバンドルータを使わずに、NTT東の光電話対応ルータをIPv4のPPPoEルータとして使ってます。
2.NTT東西「サービス情報サイト」へのアクセス環境の準備
次の手順で「フレッツ・v6オプション」の申し込みを行いますが、これは自分のパソコンからNTT東西の「サービス情報サイト」で申し込むのが手軽です。(116に電話しても申し込めます)ただし、「サービス情報サイト」はフレッツに接続されたパソコンからしかアクセスできません。以下のリンクをクリックして画面が表示されればOKですが、表示されなかった場合はNTT東西のページを見て設定をご確認ください。
- NTT東日本の方: http://flets-east.jp/→「サービス申込受付ページ」
- NTT西日本の方: http://www.flets-west.jp/wso/→「サービス申込受付ページ」
画面が表示されない場合は以下のページをご覧下さい。
- NTT東日本の方: サービス情報サイト
- NTT西日本の方: フレッツ・スクウェア
IPv6でインターネット接続を利用するには「パソコンがIPv6対応」「(ブロードバンドルータを使っている場合は)IPv6パススルーが有効」である必要があります。これは上記リンクから「サービス情報サイト」を開くための条件と同じです。
フレッツに繋がっているパソコンなのに「サービス情報サイト」が開けない場合は、上記の条件のどちらかが満たせていない可能性があります。この状態では、申し込みが完了してもIPv6でインターネットに繋がりませんので、申し込みを行う前にパソコンやブロードバンドルータの設定を確認してみてください。
(Chromeでサービス情報サイトが開けない場合は、IE、Firefoxで試してみてください)
3.「フレッツ・v6オプション」の申し込み
IPoE方式のIPv6接続を利用する場合は、まず、NTT東西に、フレッツ光ネクストのオプション契約である「フレッツ・v6オプション」を申し込んでおく必要があります。「フレッツ・v6オプション」の月額利用料は無料ですが、申し込み方法によっては初回のみ「工事費」が必要になります。
サービス情報サイトから申し込み | それ以外の方法で申し込み | |
---|---|---|
NTT東日本 | 工事費不要 | 工事費必要 |
NTT西日本 | 工事費必要 |
IPoE接続のために必要な「フレッツ・v6オプション」は「基本契約」のみです。他に「ネーム」という項目がありますが、こちらは設定してもしなくてもかまいません。
4.IIJmio FiberAccess/NFへの申し込み
さて、ここまで準備をして、やっとIIJmioへの申し込みです。これは普通のISPへのオンラインサインナップと同様です。クレジットカードをご用意のうえWebの指示に従ってご契約ください。なお、ここでもNTT東西の「お客様ID」「アクセスキー」が必要になります。
申し込みが完了すると、IIJmioの画面上で「調整中」と表示されます。これはIIJがIPv6の開通手続きを行っている途中で、残念ながらこの状態ではIPoE接続はまだ利用できません。現時点では開通手続きに1営業日程度時間を頂く場合がありますので、余裕を持ってお申し込みをお願いします。なお、FiberAccess/NFでは、IPoE方式のIPv6接続だけでなく、PPPoEによるIPv4接続2も利用可能ですが、IPv4についてもIPv6が開通するまで利用できません。
IPv6開通手続きが終わると、IIJmioより「ご利用開始日確定のお知らせメール『ready to start』」が申込時に登録したメールアドレスに送られます。
『ready to start』メールが届いたら、念のためにIIJmioにログインして契約状況を確認してみます。ご覧の通り、「サービス中」になっていますね?では、そのまま画面左上のIIJmioロゴの付近に視線を移動させてみましょう。
おめでとうございます!これが表示されていれば、あなたはすでにIPv6インターネットに繋がっています!3
「ネイティブ」の意味
冒頭で「IPoE方式ではIPv6の為の接続設定は不要」と書きました。ご覧の通り開通の連絡が来た直後にはIPv6でインターネットが利用できるようになっています。これはいったいどういうことでしょうか?
IPoE方式の旧称である「ネイティブ方式」の”ネイティブ”というのは、PPPoEやL2TPのようなトンネリング技術を使わない、という点から来ています。
以前このblogで紹介したフレッツ光ネクスト(PPPoE方式)や、IPv6仮想アクセスの仕組みを説明する図をご覧下さい。赤字で書かれた「IPv6」の下側にはPPPoEやL2TPと言ったトンネリングプロトコルが入っているのがわかると思います。このように、トンネリングをしている場合、宅内のブロードバンドルータやトンネル機器に「トンネルの宛先」や「認証情報」を設定し、明示的に「トンネルを張る」という動作をしなければなりません。
しかし、ネイティブ方式では「トンネルを張る」という動作がないため、このような設定を行う必要は無いのです。
それでは、どうしてNTT東西やISPと契約を行うだけで、IPv6の通信ができるようになるのでしょう?この理由を、IPoE方式におけるIPv6アドレス(prefix)の割り当て方式と合わせて説明します。
フレッツ光ネクスト契約直後
フレッツ光ネクストでは、契約直後から何もしなくてもIPv6アドレスが割り当てられていると聞いたことがあると思います。このIPv6アドレスはグローバルアドレスではありますが、IPv6インターネットとの通信はできず、さらに、同じフレッツ光ネクスト利用者との通信もできません。NTT NGN4網内に存在するサービス用機器とのみ通信ができるように制御されています。この制限は「NTT東西NGN網におけるマルチプレフィクス問題」5の原因の一つでもあります。
ちなみに、手順2で紹介したNTT東西の「サービス情報サイト」は、まさにこのNGN内に存在するサーバです。
これが、フレッツ光ネクストにおける最初の状態です。前述の通りIPv6でのインターネットは利用できません。このときに割り当てられたIPv6アドレスを、仮に「prefix X」と呼ぶことにします。
フレッツ・v6オプションを契約
次に手順3でフレッツ・v6オプションを契約した直後の状態です。
フレッツ・v6オプションだけを契約してもインターネットと通信ができないのは以前と変わらないのですが、このオプションを契約すると、他のフレッツ光ネクスト契約者との通信(NGN折り返し通信)が利用できるようになります。
これは、宅内のパソコンに割り当てられたIPv6アドレスが変化したために起こるものです。NGN網では、パソコンに割り当てられたIPv6アドレスにより、通信可能な範囲が制限されています。このため、オプション契約後にパソコンに割り当てられたIPv6アドレスを変更することで、今まで行えなかった通信が行えるようになるのです。
このIPv6アドレスの変更は利用者が意識することなく、自動的に行われます。フレッツ光ネクストでは、宅内のパソコンに割り当てられるIPv6アドレスは、
- NTT NGN網内にある機器が、宅内にあるフレッツ光ネクスト終端装置に割り当てる
- フレッツ光ネクスト終端装置が宅内のパソコンに割り当てる
という手順で割り当てられています。フレッツ・v6オプションを契約すると、このNTT NGN内にある機器からフレッツ光ネクスト終端装置に対して、新しいIPv6アドレス(prefix)が通知されます。それを受けて、宅内のパソコンにも新しいIPv6アドレスが割り当てられるのです。この間利用者がパソコンに対して何か操作を行う必要はありません。このときのIPv6アドレスを「prefix X’」と呼ぶことにします。
この画面写真では、直前に使っていたprefix Xの割り当てがまだ残ったままになっており、複数のprefixのIPv6アドレスを持った状態になっています。
ISP契約後
ISP(IIJmio FiberAccess/NF)を契約し、IPv6の開通手続きが完了すると、ISPからNTT NGN内の機器に契約情報が通知されます。すると、先ほどと同じように、NTT NGN内の機器からフレッツ光ネクスト終端装置に対して新しいIPv6アドレスが通知され、その結果パソコンにも新しいIPv6アドレスが割り当てられます。
このときに割り当てられたIPv6アドレスを「prefix Y」と呼ぶことにします。「prefix Y」のアドレスは、NTT NGN網内で通信が止められることなく、NGN網と相互接続をしているISPを経由して、IPv6インターネットと通信することができます。
これが、IPv6インターネットの「開通」に相当するのです。このタイミングでパソコンに割り当てられたIPアドレスを確認すると、今までとは違ったものになっているのが確認できると思います。
おさらいをすると、IPoE方式では契約状態によってパソコンに割り当てられるIPv6アドレスが自動的に変化します。また、NGN網内ではIPv6アドレスによって、NGN網内のみ通信が許されているのか、それともインターネットと通信して良いのかが制限されています。契約状態の変化に合わせてIPv6インターネットが「開通」する仕組みが作られているのです。
割り当てられたIPv6アドレスについて
最後に割り当てられたIPv6アドレスの話を紹介しておきましょう。
ここまで3つのIPv6アドレス(prefix)が登場しました、実はこれ、割り当てを行っている組織が異なるのです。
上の表は、今回登場した各prefixについて、IRRというデータベース6で登録情報を調べたものです。NGN内でしか通信ができないprefixはNTT東が登録していることがわかりますが、インターネットと通信できるprefixはINTERNET MULTIFEED CO.という組織が登録しています。”INTERNET MULTIFEED CO.”はIIJグループのインターネットマルチフィード株式会社のことです。
IPoE方式でサービスを提供するためには、NTT NGN網とISPのネットワークを相互接続しなければならないのですが、NTT NGN網の都合ですべてのISPが相互接続をする事ができません。そこで、各ISPの中から「代表三社」がNTT NGN網と相互接続を行い、その他のISPは代表ISPと提携する形でサービスを提供することになりました。IIJグループであるインターネットマルチフィード株式会社はこの代表三社のなかの一社で、IIJを含めたいくつかの会社と提携して、IPoE方式のIPv6インターネットサービスを提供する予定です。
IPv6にチャレンジしてみませんか?
さて、今回はフレッツ光ネクストIPoE方式を【試してみた】ということでお送りしました。
特に日本国内では、大きなシェアを持っているNTT東西の接続サービスの仕組みが複雑なことがあり、簡単にIPv6を使うにはまだちょっとハードルが高いという感じです。とはいえ、これからブロードバンドルータなどの機器もこなれてきて、今までのIPv4と同じように、手軽にIPv6インターネットも利用できるようになると思います。先日紹介したWorld IPv6 Dayのように、サーバ側の対応もこれからどんどん進んでいくと思いますので、是非、皆さんの家庭にもIPv6を導入してみてください。
IPoE方式で割り当てられるIPv6 prefix長について
サービス開始当初
- ひかり電話契約あり
- ONU配下には/48で配布され、HGWの先はDHCPv6にて/52で分割配布される
- ひかり電話契約なし
- ONU配下には/64がRAで配布される
2012年6月後半以降
- ひかり電話契約あり
- HGWが/56をDHCPv6で受け、HGWの先にRAで/64を配布または、DHCPv6で/60を配布
- ひかり電話契約なし
- ONU配下に/64が1つRAで配布される
本日の関連サービス
- 念のために書いておきますが、あくまで仕様上の最大値です。常にこの速度が出ることは保証されていません。 [↩]
- 以前から提供しているFiberAccess/DFと同様のサービス [↩]
- パソコンでIPv6を無効にしていたり、ブロードバンドルータでIPv6の中継を無効にしている場合は、そのままではIPv6の通信はできません。最近販売されているパソコンやブロードバンドルータならほとんど初期設定で問題ないとは思いますが、もし、無効に変更していた場合はその設定を変更してください。 [↩]
- フレッツ光ネクストはNTT NGN網を利用したサービスです [↩]
- 参考:マルチプレフィックス問題とは(JPNIC) [↩]
- インターネット上の経路情報を蓄積するデータベース。参考:IRRとは(JPNIC) [↩]
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