IIJ 2018 TECHアドベントカレンダー 12/25(火)の記事です】

家庭用IPv6サービス普及の年

家庭用のIPv6サービスが一般的になってもうしばらく立ちますが、今年はTwitterなどのSNSでも「自宅の(光ファイバーの)インターネット接続にIPv6対応サービスを導入した」という話題をよく見かけたように思います 。IPv6の普及を後押ししたい立場としてはありがたいことだと思いますが、その背景に、PPPoEで提供されるIPv4接続の速度低下があり、その回避のためにIPv6(IPoE)とセットでIPv4 over IPv6サービスをご利用いただくケースが増えたのだと思うと申し訳なさも有り、少々複雑です。

参考: IPv6の普及について

IIJの技術レポート誌(技報) IIR vol.41 「定期観測レポート IIJインフラから見るインターネットの傾向」 にIPv6の利用状況を掲載しています。

Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.41

ところで、家庭用IPv6が普及していること自体はありがたいことなのですが、SNSや個人blogでの発信、ニュース記事の一部ではいささか混乱が見られるように思います。そこで、この機会にIPv6サービスに関する状況を整理してみようと考えています。なお、今回の記事はNTT東西の提供するフレッツ光サービスと、NTT東西の光ファイバーを利用する各社の光コラボサービスを想定しています。その他の通信サービスについてはまたの機会に取り上げたいと考えています。

「IPv6対応通信サービス」を契約しても、IPv6では通信されない?

家庭用のインターネット接続サービスの中に「IPv6対応通信サービス」というものがあります。例えば、IIJmioで提供している「IIJmioひかり」もその一つです。この種のサービスは、従来からの通信方式(IPv4)に加え、新しい通信方式(IPv6)にも対応しているのが特徴で、IPv4・IPv6両方の通信方式が利用できます。ところが、せっかくこのサービスを契約してもIPv6で通信が行われるケースはあまり多くないのです。

家庭からのインターネットの通信を単純化して考えると、そこに出てくる登場人物は三つに分類できます。家庭にあるパソコンやゲーム機(クライアント)と、Webやオンラインゲームなどのサーバ、そして、それらをつなぐ通信サービス(ISP)です。IPv6での通信が行われるためには、これら三つがすべてIPv6に対応している必要があります。どれか一つでもIPv6に対応していないものがあると、IPv6での通信は行われません。

IPv6対応傾向
IPv6対応傾向

ところが、この三つがそろうというケースはあまり多くありません。パソコン・スマホはほぼIPv6に対応していますが、家庭用ゲーム機のIPv6状況は芳しくありません。(Nintendo SwitchもPS4もIPv6には対応していません)また、通信先のサーバについても、一部先進的な企業を除くとまだまだIPv6対応サーバは多くなく、特にオンラインゲームについてはほとんどIPv6に対応していない模様です。1たとえば、IPv6に対応したパソコンで、IPv6対応の通信サービスを契約していても、「艦これ」のサーバはIPv6に対応していない2ので、IPv6での通信は行われないのです。

従って、「IPv6対応の通信サービス」を契約していても、ほとんどのケースではIPv6での通信が行われず、従来方式のIPv4で通信が行われていることが多いと言うことになるのです。

IPv6の「通信量」は結構多い

ここまで書いたとおり、IPv6での通信が行われるケースは限られています。ところが、統計情報を確認するとIPv6の「通信量」はかなり多いことがわかっています。これは、「一部の先進的な企業」にGoogleやAppleが含まれているためです。特にGoogleが提供するYouTubeでは大量の動画データが扱われていますが、これがIPv6の通信量を押し上げているのだろうと推測しています。

「IPv4 over IPv6通信サービス」とは?

そこでIPv6通信サービスと一緒に出てくるのが「IPv4 over IPv6通信サービス」です。「IPv4 over IPv6」は名称に「IPv6」が含まれてはいますが、「IPv6の通信サービス」ではなく、「IPv4の通信サービス」です。つまり、先ほどの例で言えば、IPv4にしか対応していないクライアントやサーバが利用します。「IPv4通信サービス (over IPv6)」とでも書けば、もう少しわかりやすいのかもしれません。

「(over IPv6)」というのはどういうことかというと、「IPv4の通信のためにIPv6を使っている」、ということになります……ここがわかりにくいのですが、無理矢理例え話にすると、『IPv4という水を運ぶ為にバケツを使う』『そのバケツを運ぶためにIPv6というトラックを使う』とでも考えてみてもいいかもしれません。

なぜ、このようなサービスが必要になるのでしょうか?それには二つの理由があります。

一つ目は、長期的に見てIPv4の利用が減っていくことが見込まれるからです。別の記事でも書いていますが、IPv4は未使用のIPアドレスが枯渇しており、これ以上の発展が見込めません。今後のインターネットの発展はIPv6が主役になると考えられています。このため今後はIPv4専用の通信設備は徐々に減ってゆき、変わってIPv6の設備が増えていくことが想定されています。ただ、そのような中にあっても、IPv4にしか対応できない「レガシー」なクライアントやサーバは今後も長期間残ると思われます。そうしたクライアントやサーバに対応するために、何らかの形でIPv4が利用できる仕組みを残しておくことは必要です。それを実現するのが、「IPv4 over IPv6」なのです。

もう一つの理由は通信の混雑ポイントの迂回です。これも別記事で書いていますが、従来使われてきたIPv4で用いられている「PPPoE」という通信方式はある地点で混雑が起こっており、通信速度が極端に低下することがあります。IPv4 over IPv6を使うとこの混雑ポイントを迂回できるため、速度低下の対策としてIPv4 over IPv6が利用するということが行われています。

IPv4 over IPv6を使うためには、IPv6 IPoE方式が必要

NTT東西のフレッツ光サービスにはIPv6の対応方式が2種類あり、それぞれ「IPv6 PPPoE方式」「IPv6 IPoE方式」と呼ばれています。現在各ISpが提供しているIPv4 over IPv6通信サービスは、IPv6 IPoE方式を利用していることが前提となっています。

「IPv4 over IPv6通信サービス」のサービス名

ということで、「IPv6対応通信サービス」と「IPv4 over IPv6通信サービス」の違いを説明しました。

SNSなどで「IPv6を導入した」という発言を度々拝見しますが、前後の文脈を見ると「IPv6 IPoEとIPv4 over IPv6サービスを利用したということなんじゃないの?」と感じることがしばしばあります。特に、「IPv6を導入したのでオンラインゲームが快適になった」という文脈では、ほとんどのケースが「IPv4 over IPv6サービス」を指しているだろうと思われます。もちろん、IPv4 over IPv6を利用する前提としてIPv6を使っているので、全くの間違いではないのですが……ここまで書いたとおり、このケースで実際に通信に使われて居るであろうIPv4 over IPv6通信サービスはIPv4の通信サービスなので、ちょっともやっとしたものを感じてしまいます。

さて、この「IPv4 over IPv6通信サービス」ですが、実際には皆さんが契約されるISP毎に別々の「ブランド名」が付いていることがほとんどです。また、各ISPは別の会社から通信サービスの「卸」提供を受けているため、卸元の会社が設定しているブランドがあります。さらに、IPv4 over IPv6の通信方式にはバリエーションがいくつかありそれぞれの方式毎に名前も付いています……ということで、いろいろな名前が出てくるというのも、混乱を招いている一つの原因かもしれません。この記事の締めとして、これらの名称の対応を紹介して終わりたいと思います。

IPv6対応サービスの名称
IPv6対応サービスの名称

ということで、12/1から始まったIIJ 2018 TECHアドベントカレンダーもこの記事にてお開きといたします。今年も一年IIJの技術blogにお付き合いいただきありがとうございました。Merry Christmas and a Happy New Year! (年内もう一記事掲載の予定ですが)

  1. もし、大規模なオンラインゲームでIPv6対応が行われればネットワーク業界でも話題になると思うのですが…… []
  2. 記事執筆時点では []