IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます。
IIJ.news vol.160 もくじ
- ぷろろーぐ「働き方」 鈴木 幸一
- Topics ゼロトラスト
- 新しい働き方に対応したセキュリティモデル ゼロトラスト
- SASEとゼロトラストは、どう違うのか?
- NISTが提唱するゼロトラスト
- ゼロトラストのポイント
- デジタルワークプレースで実現するゼロトラスト
- ゼロトラスト対応のFSEG
- 【新連載】IIJ Research となりの情シス
- 徹底調査で見えてきた、コロナ禍が浮き彫りにしたITシステムの課題
~ 情シス269人にIIJが独自アンケートを実施- 人と空気とインターネット: 転換の発想
- Technical Now:
- 東京都 大田区 クラウドで「自治体情報システム強靭性向上モデル」を実現
インターネット接続系をIIJサービスで刷新- 大和リゾート株式会社 Office 365へダイレクト接続する最新サービスで
大規模テレワーク導入のセキュリティポリシーを担保- インターネット・トリビア: 携帯電話のエリアの広さと人口カバー率 ※この記事で掲載
- グローバル・トレンド: データ覇権をめぐる世界の対立と日本の役割
それぞれの記事はIIJ.news PDF版でお読み頂けます。
インターネット・トリビア: 携帯電話のエリアの広さと人口カバー率
スマートフォンを利用するうえで、携帯電話の電波が届く範囲「サービスエリア」の広さはとても重要で、各社はエリアの拡大に力を入れています。エリアが広い・狭いということを公平に比較するための指標の一つに「人口カバー率」があります。これは、携帯電話の電波が届いている範囲に、日本の人口のうちどれだけの割合が住んでいるかを表しています。といっても、一人ひとりの住まいを訪問して調査をすることは現実的ではありませんので、あくまで机上で計算した推計となります。
かつて、この推計は市町村単位で行なわれていました。市町村の代表地点(役所・役場の所在地)に電波が届いていれば、その市町村の人口分を全てカバーしたとして計算されていたのです。しかし、この方法はあまりに大雑把で、利用者の体感とのズレも大きいと言われていました。そこで、2014年に推計方法が改められ、全国を500メートル毎に区切った範囲(メッシュ)を定め、そのメッシュの半分以上の場所に電波が届いていれば、メッシュ内に居住する人口をカバーしたと判定することになりました。これは、総務省が携帯電話会社に新しい電波を割り当てる際の審査基準として定められたもので、より実態に近い推計が可能になります。
本稿の執筆時点では、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの三社とも、メッシュ方式における人口カバー率は99パーセントを超えていると発表しています。また、2019年に新規参入した楽天モバイルも、2021年夏をメドに人口カバー率96パーセントを目指すと発表しています。
ですが、人口カバー率だけで「スマートフォンが使えるエリア」を表せるわけではありません。利用者が特に実感するのは、マンションやオフィスビルなどの建物内でしょう。
一般的に、携帯電話の基地局はビルの屋上や鉄塔など屋外に設置されます。そのため、屋外には比較的電波が届きやすいのですが、コンクリートや鉄骨に囲まれた屋内には電波が届きにくくなります。また、基地局の多くは高所からやや斜め下向けに設置されているため、建物の上層階には電波が届きにくくなります。つまり、建物の一階、窓際には電波が届いていても、上層階や建物中心部には電波が十分に届かないということが起こります。
この問題を解決するため、大手三社は利用者の多いビルには、各フロアに基地局(アンテナ)を設置するという対策を行なっています。日本の携帯電話市場では人口カバー率が高いのは当たり前で、こうした対策をどれだけ上積みできるかが、利便性を左右するキーになっていると言えるでしょう。
ところで、2019年より新しい携帯電話システムである5Gの利用が始まっています。5G はこれまでの3G・4Gとは異なる基地局設備が必要になるため、各社ともゼロスタートで各地に基地局の建設を進めています。
5Gのエリアを表す指標の一つとして、これまでの人口カバー率ではなく「5G基盤展開率」という数値が登場しました。総務省が電波を割り当てる際の審査にも、この基盤展開率が用いられています。5G基盤展開率も全国をメッシュに区切って評価するのは同じですが、ここに人口という要素を含めないのが特徴です。
人口カバー率では、そのメッシュに住んでいる人口が多いほど比重が大きくなります。つまり都市部が重視される計算方法でした。それに対し5G基盤展開率は、メッシュの数、つまり面積だけで評価しているため、都市部でも地方でも同じ重みで扱う計算方法だと言えます。
4Gまでは、あくまで携帯電話・スマートフォンという直接、人が使う用途を想定していたため、人口密集地が重視されました。一方5Gは、スマートフォンに加え、IoTに代表される「モノ」が通信を行なうためのインフラでもあります。そのため、人口が密集している場所だけでなく、それ以外の場所についても電波を届ける必要があるとされ、それが審査基準にも現れているのです。携帯電話網の用途の拡大は、こんなところにも影響をおよぼしています。