技適マークがない機器が使える?
「海外で販売されているスマートフォンを日本で使うと法律違反になることがある」という話を聞いたことがあるかもしれません。スマートフォンだけでなく、Wi-Fi対応のルータやbluetoothのワイヤレスイヤホンでも、同じように海外向けの製品を日本で使うと法律違反になる場合があります。これらに共通するのが、通信に電波を使う機器だと言うことです。
電波を使う機器を日本で合法に利用するための条件として「技適マーク」(ぎてきまーく)があります。「日本国内では技適マークが表示されていない(無線)機器を使うことができない」というのが一般的な理解かと思います。海外市場に向けた製品の多くは技適マークが表示されておらず、日本で使うことができない(使うと違法になる)ということで、冒頭のような話になります。海外には魅力的なスマートフォンがあるのに日本で使えない……と言うことに悔しい思いをされた方もいらっしゃるかもしれません。
ところが、先日技適制度の根拠になっている電波法が改正され、2019年11月20日より技適マークがない機器でも実験的に国内で利用することができるようになりました。これで海外のスマートフォンが日本でそのまま使える!と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、そう簡単な話ではないということをご紹介したいと思います。
関連情報
- 「技適」なし端末、11月20日から届け出で最大180日間利用可能に 改正電波法施行 (ITmedia NEWS)
- 技適未取得機器を用いた実験等の特例制度 (総務省 電波利用ホームページ)
- 技適未取得機器を用いた実験等の特例制度 関係法令 (総務省 電波利用ホームページ)
二つの「技適」
一般に「技適」と呼ばれる制度には以下の二つのものがあります
- 電気通信事業法に基づく「技術基準適合認定」
- 電波法に基づく「技術基準適合証明」
どちらも総務省の管轄で、しかも同じ「技適」マークを使っているので混乱しますが、それぞれ別個の目的があり、根拠になる法律も異なっています。今回は電波法に基づく「技術基準適合証明」について取り上げます。
技適マークについては、Twitter@iijmioの中の人が寄稿した記事もご覧下さい。
- 「技適」の話をあらためて整理する(ITmedia Mobile)
電波と無線機と技適の話
スマートフォンも、Wi-Fiルータも、bluetoothヘッドホンも、すべて通信に電波を使います。これら電波を発信する機器は、すべて「無線機」という扱いになります。
電線や光ファイバーでつながれた有線通信と違い、無線機が発した電波はアンテナを中心として辺り一面に広がっていきます。そのため、不用意に電波を発射すると他の無線機や電子機器に想定外の影響を与えてしまうことがあります。そういったことのないように、電波や無線機の利用は世界中で各国の政府によって管理・調整されています。
日本では電波の管理は総務省が担当しており、原則として免許を受けなければ電波は利用できません。免許を受けずに電波を発信すると「不法無線局」として処罰を受けることがあります。
ですが、スマートフォン・Wi-Fiルータ・bluetoothヘッドセットのように多くの人が大量に利用する機器の場合、個別に免許を発行するのは非常に手間がかかり現実的ではありません。そこで、一部特定の利用用途については、個別の免許なしに機器(無線機)を利用しても良い、という特例措置が設けられています。スマートフォンを含めた携帯電話機・Wi-Fi機器・bluetooth機器や、一部のトランシーバー、コードレスホン、無線接続のセンサー・制御機器などが特例の対象となっています。
こういった特例はいくつかの制度によって構成されていますが、その中の一つが「技適」制度です。機器の製造者が技適制度に沿った手続きを行い技適マークを機器に表示することが、免許なしに無線機を使うことができる条件の一つとして指定されています。1
ところが、この技適制度は日本の制度のため、日本市場をターゲットにしていない海外向けスマートフォンや各種機器の多くは「技適」に定められた手続きを踏んでいません。このような無線機(スマートフォン)は特例の対象外になりますので、個別の免許を持たない皆さんが利用すると電波法違反となってしまうのです。
技適の手続きでは、対象の機器が日本の技術基準に適合しない電波を発射することができない構造(設計)になっていることを証明します。これによって、免許を持たない(専門知識を持たない)人が無線機を使っても想定外の電波を発射しないことが担保される、という理屈です。
ここで一つ注意していただきたいのは、「技適」というのは、対象の無線機が定められた規格に適合していることを「手続きで証明」し「マークで表示」しているという点です。例えば、Wi-Fiというのは(原則として)世界共通の規格ですので、海外で販売されているWi-Fi機器と日本で販売されているWi-Fi機器には技術上の違いは(ほとんど)ありません。海外向けに発売されているWi-Fi機器であっても、日本の基準に沿った電波を出しているかもしれません。しかし、それが手続きで証明されておらず、マークで表示されていないため、免許を持たない(専門知識を持たない)人は、適法に利用可能な無線機かどうか判断できません。
(ちなみにWi-Fiにも各国固有のバリエーションがあり、完全に同じ仕様で作られているわけではありません)
例外措置
こうした技適制度、技適を活用した免許外での無線機での利用には、いくつかの例外措置が設けられています。これによって技適マークがない機器であっても、例外の範囲内では日本で利用することができます。
海外からの旅行者を想定した例外
その一つが海外旅行者が自国で使っていたスマートフォンなどを日本に持ち込む場合の例外規定です。これは以前から電波法に規定されており、2016年5月21日に施行された改正電波法でより緩和が進みました。
この措置では、携帯電話(LTE等)と、Wi-Fi・bluetoothについてそれぞれ別個に規定があります。
携帯電話(LTE等)
こちらは電波法第103条の6に規定されています。法律の条文はわかりにくいでの要約すると、
- 海外で利用されていた携帯電話(スマートフォン)が、
- 日本の技術基準適合証明に相当する海外の技術基準に適合している場合、
- 包括免許の範囲内で運用して良い(個別の免許を取得しなくて良い)。
という趣旨になります。
Wi-Fi・bluetooth
こちらは電波法4条2項に書かれており、
- 海外からの旅行者が持ち込んだ機器が、
- 日本の技術基準適合証明に相当する海外の技術基準に適合している場合、
- 入国から90日間に限り技適マークが表示された機器と同様に扱って良い。
という趣旨になります。
両者の立て付けが若干違うことに注意が必要です。特にスマートフォンは一般的に携帯電話の機能とWi-Fi・bluetoothの機能の両方を持っています。携帯電話の機能については、特に期限の定めがないのに対して、Wi-Fi・bluetoothは期限の定めがあるため、うっかり長期間使っていると違法状態になる可能性があります。
また、Wi-Fiルータやbluetoothヘッドホンなどは、海外からの旅行者が持ち込んだ場合は入国から90日間利用できることにはなりますが、日本在住の人が海外から通販で購入した場合はこの条文の条件に適合しない可能性があります。
実験的に利用される無線機の例外
こちらが今年改正された法律で認められた例外です。以下の資料にも書かれているとおり、実験目的とされている点がポイントです。
- 総務省|電波監理審議会|電波監理審議会(第1068回)会議資料
- 電波法施行規則等の一部を改正する省令案(技適未取得機器を用いた実験等の特例制度関係)(諮問第23号)
従来は海外で流通している機器を日本に導入する際、日本での利用に価値があるかの検討のような段階であっても、無断で電波を発射することはできませんでした。実験のためには電波を外部に漏らさない電波暗室(電波暗箱)のような特別な設備を使う、あるいは個別に実験局の免許を受けるといった複雑な手続きが必要となり、非常にコストと手間がかかりました。これを一定の範囲内に限っては、簡易な手続きだけで利用を許可するという方針転換があったのです。
制度を要約すると、
- 実験目的であれば、
- 対象の機器が日本の技術基準適合証明に相当する海外の技術基準に適合している場合、
- 簡単な届け出だけで
- 180日間に限り実験的に電波を発射することができる。
となっています。さらに、
- 個人でも届け出可能
- 機器の仕様確認は本体表示やマニュアルの記述程度で良い (海外流通の製品の場合)
- 実験目的を変更すれば延長(再申請可能)
- 準備ができ次第Webでも届け出できるようになる
という話もあり、この種の制度としては相当「緩い」運用となるようです。こういった背景があって冒頭に紹介したニュースのような話題が盛り上がっています。
ところが、上記の資料にも書かれているのですが、携帯電話(LTE等)とそれ以外では手続きが異なるようなのです。
携帯電話以外の場合
- Wi-Fiやbluetoothなど、告示された規格に沿っていれば利用者(実験者)自身が直接届出できる。
携帯電話(LTE等)
- まず携帯電話事業者が許可を取得する。
- 利用者(実験者)は携帯電話会社と契約する。
- 届け出は携帯電話事業者がまとめて行う。
とされており、携帯電話・スマートフォンの場合は利用者が直接届け出ることは想定されていないようです。これは携帯電話の包括免許が携帯電話事業者に与えられていることが理由ではないかと思われます。そのため、包括免許を取得する立場ではないMVNO2は届出の当事者にはなれません。
携帯電話(LTE等)については現在届出の準備が進められている途中ですので、実際にどのような運用になるかはまだ分かりませんが、「11月20日になれば海外スマートフォンが日本でも使える!」という話は少々早合点が過ぎるかもしれませんので、ご注意下さい。
とはいえ、この制度によって海外のベンチャーが開発したIoTガジェットなどの輸入販売を検討する際のテストなどがやりやすくなります。今後はこの制度を活用して、電波を使ったガジェットの流通が盛んになると良いなと思っています。