IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます

IIJ.news vol.138 もくじ

iijnews138

  • ぷろろーぐ「春は冷たくとも」 鈴木 幸一
  • 特別対談 人となり
    東海旅客鉄道株式会社 代表取締役名誉会長 葛西敬之氏

    IIJ 代表取締役社長 勝 栄二郎
  • Topics グローバル化する Information & Technology
    • グローバルビジネスのミッション
    • EU一般データ保護規則(GDPR)の注意点と対策
    • ベトナムとラオスでの展開
    • さらなる進化を遂げたIIJ GIO CHINAサービス
    • グローバルな活用を支援するIoTデバイス用SIM
    • グローバル時代のデジタルトランスフォーメーション
    • ASEANのディザスタリカバリ市場を開拓
  • 人と空気とインターネット 日本人のクリエイティビティ
  • インターネット・トリビア インターネット上での音楽の利用と著作権 ※この記事で掲載
  • グローバル・トレンド ITで国づくりのまなざし

インターネット・トリビア: インターネット上での音楽の利用と著作権

インターネット上でコンテンツを発信する際には、利用するコンテンツや素材の権利関係に注意する必要があります。文章、画像、プログラム、そして音楽ももちろん有力なコンテンツのひとつです。音楽単体をダウンロードなどで販売することもあれば、ホームページの BGM など、他のコンテンツの一部として使用することもあるでしょう。今回はインターネット上で音楽を利用する場合の「著作権」の扱いについて紹介します。

そもそも音楽にはどのような人が関わっているのでしょうか。まず思いつくのが、作曲や作詞をした人です。このような人は「音楽の著作者」といい、その音楽についての「著作権」という権利を持っています。インターネット上で楽譜や歌詞を利用したい場合は、著作者、もしくは著作権を譲渡された人に許諾をもらえば良いということになります。しかし、楽譜や歌詞ではなく、それらを使って演奏された「音楽の録音物」を利用したいというケースも少なくないでしょう。この場合、音楽の著作者以外の関係者が登場することになります。演奏や歌唱を行なう「実演家」や、実演家の演奏を録音して CD や MP3 ファイルなどを制作する「レコード制作者」です。昨今ではレコードという形で音楽が世に出ることは少なくなりましたが、CD であっても、MP3 ファイルであっても、法律上はあくまで「レコード制作者」と呼ばれます。これらの人は音楽そのものを生み出した人ではありませんが、録音物に対する権利を持っています。これを「著作隣接権」といいます。録音された音楽を販売したり、ホームページで流したりする場合は、著作権を保持している人だけでなく、著作隣接権を保持している人からも許諾を得る必要があるのです。

テレビ、ラジオ、インターネットなどを使って音楽を聴衆に届けることを「公衆送信」といいます。公衆送信の区分として、テレビやラジオに適用される「放送(有線放送)」と、インターネットに適用される「自動公衆送信」が規定されています。放送局から一方的に音楽を送信する放送と異なり、インターネットでは配信用のサーバに格納された音楽データが、聴衆のリクエストに応じて自動的に送信されます。

自動公衆送信を行なううえで重要な権利として「送信可能化権」という権利が定義されています。これは、音楽のデータをサーバなどに格納し、自動公衆送信を可能な状態にできる権利です。少し不思議な権利ですが、これはインターネットの普及に合わせ1998年に新しく導入された権利です。従来から定義されていた権利だけでは、サーバから音楽データが送信された瞬間に権利が行使されたと見なされるため、権利者の許諾を得ずに音楽データを配信サーバに置いたとしても、それだけでは著作権を侵害したとは見なされませんでした。そこで、公衆送信を意図して音楽データを配信サーバに置くこと自体に権利を設定して、実際にデータが送信される前に無許諾のデータの削除を要請するなどの措置がとれるようにしたのです。

インターネットで音楽を利用する際には、著作権者、および著作隣接権者から、自動公衆送信(送信可能化)の許諾を受ける手続きが必要になります。これは一般に権利処理と呼ばれます。音楽に関する権利の手続きというと JASRAC をはじめとした音楽著作権管理団体を連想される方が多いと思いますが、これらの団体が扱っているのは著作権のみで、著作隣接権については扱っていません。録音物について実演家の持つ著作隣接権とレコード制作者の持つ著作隣接権は、レコード会社が窓口となって管理されていることが多いようです。この権利を「原盤権」と通称することもあります。著作権、原盤権それぞれについて権利処理を行なうことで、初めて適切に音楽を利用できるようになります。