IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます

IIJ.news vol.138 もくじ

iijnews138

  • ぷろろーぐ「ゆとり」 鈴木 幸一
  • 特別対談 人となり
    新日鐵住金株式会社 代表取締役会長 宗岡 正二氏
    IIJ 代表取締役社長 勝 栄二郎
  • 特集「IIJ IoT」
    • IoT概論
    • IIJの考えるIoT
    • 新しいビジネス機会を創出するIIJ IoTサービス
    • LPWAがIoTを変える
    • T[特別寄稿] IoT技術で新しい価値を創造する
  • 人と空気とインターネット ブロックチェーンの可能性
  • インターネット・トリビア インターネットと時刻 ※この記事で掲載
  • グローバル・トレンド モノトーンに染まるタイとITU Telecom World 2016

インターネット・トリビア: インターネットと時刻

インターネットにつながっているパソコンやスマートフォンでは、時計が動いています。また、データセンターやクラウドのなかのサーバでも、時計が動いています。そして、それらをつなぐためのルータなどの通信機器でも、時計が動いています。

今さら何を当たり前のことを……と思われるかもしれませんが、実はこれはとても重要なことなのです。インターネットと時計が刻む時刻は、切り離すことができない関係にあります。

理由のひとつに、運用管理上の都合があります。インターネットにつながっている機器は、正常に動作しているときでも異常が検知されたときでも、たくさんのログ(動作記録)を残します。いざ、何かのトラブルが発生した際は、このログを頼りに状況を調査するのですが、多くの場合、一台の機器に記録されたログだけではトラブルの全貌をつかむことはできません。多数の機器が記録したログをつき合わせることで、トラブルの状況を推測するという作業が必要になります。このとき、時刻を基準にしてログの突き合わせを行なうのです。

また、セキュリティを確保するための仕組みでも、時刻が重要な要素として使われています。例えば、暗号化や電子署名のために使われる証明書には有効期限が設定されており、万が一、証明書の秘密鍵が流出した際でも、被害を最小限に抑える役割を果たしています。この有効期限を確認するために、パソコンやサーバの時計が使われます。また「ログイン」操作の安全性を高めるために使われる TOTP(Time-based One-Time Password)では、時刻によって変化するパスワードを使っています。

他にも、通信の効率化を行なうために、一時的に記録される「キャッシュ」では、その有効期間を設定するのが一般的です。有効期間が設定されなければ、いつまでも古いキャッシュ情報が残り続け、更新された情報が正しく伝わらないという問題が発生します。

これらの時刻を使った仕組みには、ひとつの前提があります。それは、対象となるコンピュータや通信機器の時刻が同期している(同じ時刻を指している)ということです。複数の通信機器で時刻がズレていては、ログの突き合わせは正常に行なえませんし、その他の仕組みも正常に動作しません。

このため、インターネットに接続された機器の時刻を自動的に同期させるための仕組みが開発されました。なかでも NTP(Network Time Protocol)と呼ばれる方式が広く使われています。ネットワークを介して複数の機器の時刻を合わせる際には、通信の途中で発生する「遅延」が大きな障害となります。特にインターネットでは、通信遅延が常に変動しているため、単純な方法で時刻を合わせようとしても、ランダムな「ズレ」が生じてしまいます。そこで NTP では、時刻の供給源として複数の機器を用いて、それぞれの機器とのあいだの通信遅延を継続的に監視し、統計的に処理することで、精度の高い時刻同期を実行しています。

ところで、これらの時刻同期のもととなる「正しい時刻」はどこにあるのでしょうか?

インターネットで広く用いられている時刻は UTC(協定世界時)と呼ばれるもので、メートル条約により設立された国際機関である「国際度量衡局」が管理しています。日本国内では NICT(情報通信機構)が UTC と同期した「日本標準時」を管理しており、NICT 自身や、NICT から時刻の供給を受けた事業者が NTP を使ってインターネットに時刻を供給しています。また、位置情報を調べるために使われる GPS 衛星から送られてくる信号には精度の高い時刻情報(GPS 時)が含まれているため、これを補正して得られる時刻を基準として利用することもあります。