IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます。
IIJ.news vol.133 もくじ
- ぷろろーぐ「花曇りの入社式」 鈴木 幸一
- 特別対談 人となり
建築家 安藤忠雄氏
IIJ 代表取締役社長 勝 栄二郎- Topics 世界に羽ばたくIIJのグローバル戦略
- グローバル戦略はその先のステージへ 丸山 孝一
- ASEAN地域で最強のクラウド事業者を目指す 延廣 得雄 文園 純一郎/li>
- 中国で熱望された、信頼できる・持たないプライベートクラウド 李 天一
- 世界に広がった仮想化プラットフォームサービス 大導寺 牧子
- ラオスにおけるモジュール型データセンターの試み 久保 力
- 100G回線化が進むIIJバックボーン 河野 誠
- 連載
- 人と空気とインターネット「AIの開発について思うこと」 浅羽 登志也
- インターネット・トリビア「メッセンジャーとプレゼンス」 堂前 清隆 ※この記事で掲載
- グローバル・トレンド「ハワイの違った一面」 島上 純一
インターネット・トリビア: メッセンジャーとプレゼンス
誌の読者のなかにも、スマートフォンで LINE を使っている方や、パソコンで Skype チャットを使っている方がいらっしゃると思います。これらのサービスは電子メールと異なり、テキスト(文章)のやり取りがほぼリアルタイムで行なわれます。こういったリアルタイム性の高いアプリ・サービスのことを「メッセンジャー」というカテゴリで総称することがあります。
リアルタイムなテキストのやり取りの仕組み自体は、ずいぶん前からありました。例えば、インターネットを介して多人数が同時にチャットを行なう「IRC」です。ですが、これらの古典的なチャットとメッセンジャーは、異なるカテゴリのサービスだと考えられます。
インターネットのなかでメッセンジャーという考え方を初めて具体化したのは、1996年に登場した「ICQ」でしょう。ICQ が従来のアプリケーションと大きく異なるのは、「特定のサービス提供元が利用者を一元的に管理している」ことと「他の利用者の“状態”を知ることができる」という点にあると考えられます。古典的なチャットでは、利用者が明示的に管理されておらず、また、テキストをやり取りしている相手がどのような状態なのかを知るための特別な仕組みはありませんでした。これに対して ICQ は、サービス提供者が利用者の情報を一元的に管理しており、ID によって特定可能です。さらに、利用者が「オンライン(パソコンの前にいる)」「離席中」「多忙(のため対応できない)」といった状態を登録でき、テキストをやり取りする相手がそれを参照できます。この機能を利用して、相手がパソコンの前にいるか、今話しかけても大丈夫かといったことを把握できるのです。このような「状態」のことを「プレゼンス(presense)」と呼びます。
ICQ の大成功のあとを追って、数多くのメッセンジャーサービスが世に送り出されました。これらのサービスは ICQ に取って代わろうとさまざまな機能を拡張しましたが、ほとんどのサービスがプレゼンス機能を実装しています。いつしか、プレゼンス機能はメッセンジャーになくてはならないものと認識されるようになりました。
スマートフォン時代になり、メッセンジャーの世界にも新たな動きが起こりました。そのひとつが2010年に登場した Kakao Talk(カカオトーク)であり、それに刺激を受けて開発された LINE です。LINE が日本を中心に多くの利用者を獲得していることは皆さんもご存じでしょう。また Kakao Talk や LINE を追いかけるかたちで、数多くのスマホ用メッセンジャーが登場しています。
これらスマホ時代のメッセンジャーを見渡すと、従来型のメッセンジャーでは必須とされていたプレゼンス機能がないことに気づきます。いくつかのアプリケーションでは、メモ書きのようなものを残せる機能がありますが、従来のメッセンジャーのように「チャット可能」であることをシステム的に管理するような枠組みにはなっていません。ですが LINE は、リアルタイム性の高いコミュニケーション手段として受け入れられ、広く普及しました。
思い起こせば、従来型のメッセンジャーにおいて「プレゼンス情報の更新」は、頭の痛い問題でした。いちいち「オンライン」や「離席」の状態を変更するのは面倒なので放置されて、必要なときに連絡が取れないといった問題があるかと思えば、逆にコミュニケーション疲れから「居留守」機能の要望が出ることもありました。実は、プレゼンス機能は、利用者にとって必須ではなかったのかもしれません。
このように一世を風靡したサービスが作ったひとつの「常識」が、別の大流行したサービスによって塗り替えられるというのは、大変興味深い出来事ではないかと思います。