IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます

IIJ.news vol.132 もくじ

iijnews132

  • ぷろろーぐ「早春」
  • Topics 広がる IIJのモバイルサービス
    • IIJのMVNO事業
    • みおふぉんのこれまで、みおふぉんのこれから
    • サービスの裏側 MVNOサービスを支えるインフラ
    • MVNOへの参入支援~MVNEの役割
    • IIJmio 拡充する販売網
    • 知って安心! MVNOにまつわる不安を解く!
  • 連載
    • 人と空気とインターネット「資本主義から”シェアの経済”へ」
    • インターネット・トリビア「エンジニアとキーボード」 ※この記事で掲載
    • グローバル・トレンド「英国の商談スタイル」

インターネット・トリビア: エンジニアとキーボード

インターネットはコンピュータや通信機器で作られたネットワークですが、それを設計・構築・運用しているのは人間のエンジニアです。エンジニアが仕事をする際、さまざまな道具のなかでも一番長時間向き合うのは、パソコンのキーボードでしょう。キーボードはエンジニアにとって、とても重要な装置ですので、自然とこだわりは深くなります。今回のインターネット・トリビアは、キーボードについてご紹介したいと思います。

日本で販売されているパソコンのキーボードには、アルファベット以外に「かな」が刻印され、漢字変換のために「全角/半角」キーや「変換」キーが用意されています。これらは日本向けに作られた「日本語キーボード」と呼ばれるものです。ところがエンジニアのなかには、あえて日本語キーボードを利用せずに、英語用のキーボードを好んで使う人がいます。というのも、英語キーボードは「かな」が刻印されていないだけでなく、日本語入力のために用意されたキーがありません。そのため、スペースキー(空白)を広くとるなど、余裕を持った配列になっていることが多いのです。エンジニアは圧倒的にアルファベットを入力することが多いため、日本語よりも英語を優先しているのです。日本語変換操作は、英語キーボードでも複数のキーを組み合わせて対応できるため、同じキーボードでメールを書くのも問題ありません。

日本で発売されているノートパソコンのなかには、交換パーツやカスタムメイドで英語キーボードを選べるものがいくつかあります。ノートパソコンを選ぶ際、そういった機種を選んだり、わざわざアメリカ仕様の製品を取り寄せて使うエンジニアもいます。

また、特定のキーボードに人気が集中するケースもあります。代表的なものは、かつて IBM が開発していたノートパソコン「ThinkPad」のキーボードでしょう。ノートパソコンではスペースの制約のため、一部のキーが妙な場所に配置されたり、軽量化・薄型化のため、キーを押したときの感覚がはっきりしないものが少なくありません。そうしたなか ThinkPad はソツのない配置としっかり押し込めるボタンを作り込んで、高い評価を得ました。さらに、キーボードの中心には、マウスの代わりに搭載された「TrackPoint」と呼ばれるスティックがあり、キーボード操作中にマウスを触るときでも、手をほとんど動かさなくてもいい点も人気があった理由の一つでした。ThinkPad のキーボードは非常に人気が高かったので、ノートパソコンから独立したキーボードだけが、デスクトップパソコン用としても販売されています。

このようなキーボードのなかで、もっとも特徴的なのが「Happy Hacking Keyboard」です。これは、和田英一東京大学名誉教授(現 IIJ 技術研究所顧問)が1995年に考案したキーボードで、UNIX コンピュータを使った「Hack」(コンピュータエンジニアが行なうかっこいい作業)に特化された設計となっています。和田先生は「キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースである」という考えのもと、コンピュータによってキーの配列が変わることを嫌い、複数のコンピュータで同じ配列のキーボードを使えるよう、持ち運び可能なコンパクトな筐体に必要最低限のキーだけを並べたキーボードを考案しました。このキーボードはメーカによって製品化され、現在に至るまでオリジナルのコンセプトを維持しながら改良が加えられ、販売され続けています。そして、多くのエンジニアの相棒として愛用されています。


参考資料

IIJ.newsに掲載した原稿では紙幅の関係で和田先生の文章を一言しか引用できませんでした。ここで該当箇所を紹介いたします。

アメリカ西部のカウボーイたちは, 馬が死ぬと馬はそこに残していくが, どんなに砂漠を歩こうとも, 鞍は自分で担いで往く. 馬は消耗品であり, 鞍は自分の体に馴染んだインターフェースだからだ.

パソコンが 5 万円にもなろうとするのに, キーボードが 3 万円もしていいのかと質問されるが, いまやパソコンは消耗品であり, キーボードは大切な, 生涯使えるインターフェースであることを忘れてはいけない.

パソコン, ワークステーションを買い代えるたびに新品のキーボードがついてくるのがおかしかったのである. 手に馴染んだキーボードはいつまで使いこみ, パソコンを買ってもキーボードはついてこないという時代に早くしたいものである.

(WIDEプロジェクト 1995年度研究報告書(PDF)より引用)

IIJ技術研究所 顧問 和田英一

WIDEプロジェクト和田先生のページでもHappy Hacking Keyboardについての文章を公開されています。