IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます

IIJ.news vol.129 もくじ

iijnews129

  • ぷろろーぐ「悲観論」
  • Topics ASEANにおける日系企業のIT戦略
    • ASEAN経済共同体発足を前に
    • 座談会 ASEANにおける日本企業のグローバルマネージメント
    • ASEANの個人情報保護規制への対応
    • インドネシアでのクラウド展開
  • 連載
    • 人と空気とインターネット「次世代のプラットフォーム構想」
    • Technical Now「より安全な二段階認証を実現するIIJ SmartKey」
    • Technical Now「企業内コミュニケーションツールの進化」
    • インターネット・トリビア「絵文字」 ※この記事で掲載
    • グローバル・トレンド「プロジェクト成功の裏側」

インターネット・トリビア

今、世界中で「絵文字」が注目されています。顔マークやビールのマーク、テレビのマークなどが、日本語圏以外でもそのまま「emoji」として認知されています。その源流は2000 年代に始まった日本の携帯電話の「絵文字」です。画面も小さく画像表示にも制限があった当時のケータイで多くの情報を伝えるために、これらの絵文字は多用されました。最初にケータイに絵文字を取り入れたのは docomo の「i モード」で、その他の携帯電話会社も追随し、各社様々な絵文字を追加してきました。

初期の絵文字は各携帯電話会社の独自規格であり、会社間で相互に利用するという意識がありませんでした。例えば、同じ「スマイルマーク」も各社で雰囲気がばらばらだったり、ある会社で使える絵文字が別の会社では使えないといったことも頻発していました。

その後、メールや掲示板を各社のケータイで相互に使うために、絵文字を自動的に変換する機能が作られましたが、会社によっては存在しない絵文字もあるので完全な変換はできず、真っ黒な四角に置き換えられるなど、不十分なものでした。また、ケータイのメールはインターネットともやり取りはできましたが、インターネット宛のメールでは絵文字は全て削除されていました。

そして、スマートフォンの時代を迎えます。スマホが日本で使われ始めると、従来のケータイ利用者とスマホ利用者のあいだでメッセージをやり取りするために、スマホでも絵文字が必要になります。ここで登場したのが、iPhone を開発している Appleと、Android や Gmail などのサービスを開発している Googleです。両社は日本の絵文字を自分たちのサービスにスマートに取り込むために、世界の文字を体系的にまとめている Unicode(ユニコード)に「emoji」を取り込むことを提案しました。この提案は採択され、日本の「絵文字」は世界の「emoji」となったのです。

しかし一方で、「emoji」は日本国内だけで使われていたときには想像もできなかった現象を引き起こしました。「emoji」は日本のケータイの絵文字をほぼそのまま収録していますが、絵文字には日本固有の文化や風習を下敷きにしたものが少なくないため、そういった前提知識がない人にはわかりにくいものが含まれていました。

例えば、「NAME BADGE」という説明で登録されている絵文字。これは、日本の幼稚園児が胸につけているような、赤いチューリップの形をした名札です。日本で過ごしたことがある方ならピンとくるでしょうが、海外では理解されません。それ以外にも絵文字の一覧を見ていると「DANGO」(串に刺さった3つの団子)や、「SAKE BOTTLE AND CUP」(とっくりとおちょこ)、「TANABATA TREE」(七夕飾り)など、ひと言で説明するのがむずかしそうな「emoji」が並んでいます。

このような微笑ましい話題だけでなく、深刻な話題もあります。ケータイの絵文字にはリアルな人の姿を模したものが含まれています。「emoji」が世界で使われるようになると「Unicode に含まれている emoji は特定の肌の色に偏っている、多様性が欠如している」という指摘が寄せられるようになりました。この問題は日本に住む我々が感じるよりも、はるかに深刻に受け止められています。Unicode を制定している Unicode コンソーシアムは、「emoji」で多様な肌の色を表現できるようにすべく、Unicodeの規格そのものに変更を加えました。

日本の「絵文字」が世界の「emoji」になることで日本の文化が世界に輸出され、同時に世界の常識を取り入れなければならなくなりました。これは、インターネットが世界につながっていることのひとつの証かもしれません。