IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます。
IIJ.news vol.134 もくじ
- ぷろろーぐ「生産現場の夢想」 鈴木 幸一
- Topics ヘルスケアとICT
- IIJヘルスケア事業への第一歩
- インタビュー 地域包括ケアシステムと電子@連絡帳/支援手帳
- 情報格差を縮め、人々の健康に貢献する「わすれなびと」
- 在宅医療の現場に求められるICTの役割
- 遠隔画像診断の現在
- “ヘルスケアとICT”をめぐるキーワード
- 連載
- 人と空気とインターネット「お布団農法と IoT」
- Technical Now「マネージドビデオ会議サービス「COLLABO de! World」事例紹介」
- インターネット・トリビア「「例示」のためのドメイン名・IPアドレス」 ※この記事で掲載
- グローバル・トレンド「タイでの新たな船出」
インターネット・トリビア: 「例示」のためのドメイン名・IPアドレス
世の中には文章などで「例」を示すことがたびたびあります。役所の窓口で何かの申請を行なうときのことを想像してください。規定の書式の書類にどのように記載すべきかを示した「記入例」が用意されているでしょう。そうした記入例には、名前や住所が書かれてあり、多くの場合、自治体名などをもじった、実際には存在しないであろう名前が記入されていると思います。悪意はなくとも実際に存在する人の名前を「例」として書くのは失礼ですし、万が一、それをそのまま書類に転記してしまう人がいたら、何か不都合が生じるかもしれません。記入例には、そういった事故を避ける配慮がなされています。
ところが、インターネットについては、そういった配慮が忘れられてしまうことがしばしばあります。「ここにメールアドレスを入力してください」という表記に添えた「記入例」に、実際に存在するドメインが使われていたりするのです。例えば、“abc”のような単純なアルファベットであったり、何かの単語であったりしますが、そういった単語でドメイン名を登録している方がいらっしゃることがままあります。インターネットでは世界中がつながっていますので、日本語や英語としては意味がないアルファベットの並びであっても、実は他の言語ではよく使われる単語だったりすることも十分にあり得るのです。
「例」であるはずの箇所に実在のドメイン名が使用されたために困ったことになるのは、電子メール関係が多いようです。例えば、メール関連のソフトウェアの設定で、「差出人」として例示されたドメイン名を使ってしまった場合、メールの受信者が「返信」したり、エラーになったメールが実在の第三者のところに届いてしまう可能性があるのです。内容にもよりますが、情報漏えいの危険性もありますし、なにより無関係のメールが届いたドメインの登録者に迷惑です。
こうした事故を避けるには、「例」として挙げるドメインは、他の誰かに使われていないものを選択することが重要です。そこで、インターネットでは「例示のためにだけ使っていいドメイン名」というのがいくつか決められています。「example.com」「example.net」「example.org」(RFC2606で規定)や、「example.jp」「example.co.jp」「example.ne.jp」(JPRSが規定)などです。
これらのドメイン名は「例」として文書などで使うことはできますが、実用は不可で、ドメイン名管理団体にも登録できません。仮に誤って例示の通りに設定してしまったとしても、他の人に迷惑をかけないような仕組みになっています。
同じように IP アドレスについても、例示のために使うものが決められています。IPv4 では「192.0.2.0/24」「198.51.100.0/24」「203.0.113.0/24」の3ブロック(RFC5737で規定)、IPv6 では「2001:db8::/32」(RFC3849で規定)が例示用として指定されています。こうした IP アドレスは、ネットワークの構成例を書く際にも利用できます。
このような例示のための仕組みがいちいち規定されているのが、いかにもインターネットっぽいと感じます。インターネットに関する書類や Web ページをつくる際には、こういったところに配慮していただければ、無用なトラブルを回避できると思います。