IIJでは広報誌「IIJ.news」を隔月で発行しています。本blogエントリは、IIJ.news連載コラム「インターネット・トリビア」を転載したものです。IIJ.newsはご希望者へ郵送でお送りしています。また、IIJ WebではPDF版をご覧頂けます

IIJ.news vol.159 もくじ

iijnews159

  • ぷろろーぐ「夏の読書」 鈴木 幸一
  • Topics IoTにできること
    • IoTを活用したwithコロナ/afterコロナ時代のビジネスモデル変革
    • 製造業におけるIoT活用
    • トヨタ自動車北海道 新設した生産ラインにIoTシステムを導入
    • IoTがサポートする HACCP
    • ICTを活用した農業実証事業
    • スマート農業の現状と今後
    • IIJ IoTサービス ユースケースと今後の展望
    • IoTで“さりげなく”見守る独居ケアアシスタント
    • こんなところにIoT
  • 人と空気とインターネット: 人類の進化とウイルス
  • インターネット・トリビア: GPS にまつわるあまり知られていないこと ※この記事で掲載
  • グローバル・トレンド: インドネシアからベトナムへ

それぞれの記事はIIJ.news PDF版でお読み頂けます。

インターネット・トリビア: GPSにまつわるあまり知られていないこと

スマートフォンの地図アプリでもお馴染みの、現在位置を確認するために使われるGPS(Global Positioning System)というシステムがあります。GPSは人工衛星の電波を使って現在位置を測位します。GPSがカーナビなどで一般的に利用されるようになって30年近くが経ちますが、その動作の仕組みがなかなか伝わらないようで、今年になっても新聞に誤った説明が掲載されるということがありました。今回は、そんな GPSについてのトリビアを紹介します。

GPSはスマートフォンのような通信機器で利用されることが多いためか、端末と人工衛星が相互に情報をやり取りしていると思われることが多いようです。しかし、これは誤解です。GPS衛星は一方的に信号を送ってくるだけで、端末から人工衛星に向けて信号は送られていません。また、GPS衛星が送る信号は、時刻や衛星がどこを飛行しているかといった情報に限られているため、GPS衛星経由で各端末に個別のメッセージを送ることもできません。

GPSを使ったアプリのなかには、現在位置をクラウドなどに記録したり、端末を呼び出したりするものもあります。新聞などでこうしたアプリが紹介される時に「GPS衛星を経由して通信が行なわれる」と説明されることもありますが、これは正しくありません。あのようなアプリは GPS衛星経由で通信を行なうのではなく、LTEなどの携帯電話網を使ったインターネットを利用しています。

これまでの説明で、GPSの利用には携帯電話網などのインターネット通信が必須と思われたかもしれませんが、GPSはインターネットがなくても使えます。GPSを使って現在位置を測位するだけであれば、人工衛星からの信号だけで GPSは動作します。例えば、山登りに使われるような GPS端末は、携帯電話の電波が届かないところで利用されています。こうした端末では、緯度・経度のみが表示されたり、あらかじめ端末に保存しておいた簡易な地図が利用されています。

GPSのなかでインターネットを必要とする機能に A-GPSがあります。これはあくまで GPSを補助(Assist)するシステムで、端末が衛星からの信号を捉えて、測位を高速化します。あくまでも補助的な機能なので、インターネットが使えず、A-GPSが利用できない場合でも少し時間をかければ、現在位置を測位することは可能です。

GPSと似たようなシステムはいくつもあります。GPSは人工衛星を使った測位システムとしてもっとも有名で広く利用されていますが、基本的にはアメリカが運用するシステムです。GPSと同じアイデアのシステムは他の国でも運用されています。ロシアが運用する GLONASS、EUが運用する Galileo、中国が運用する北斗(BeiDou)は、いずれも全世界で利用可能な人工衛星を使った測位システムです。これらを総称して、GNSS(Global Navigation Satellite System)と呼びます。また、日本が運用している準天頂衛星システム「みちびき」は、アメリカの GPSシステムと連動して、日本周辺での測位を改善します。そのほか、インドが運用する NavICも、インド周辺に限定した測位が行なえるシステムです。

GPSやその前身となるシステムは、人工衛星の電波を使って測位するという画期的なアイデアを実現しました。ただ、電波を使って現在位置を測位するというアイデアは、それ以前にも数々開発されています。大洋を航海する船のために考案された、アルファ航法・オメガ航法・デッカ航法・LORAN-C(ロラン C)などが代表です。これらのシステムでは、地球上の何カ所かに大規模な電波塔を建て、その電波を船が受信することで、現在位置を測位します。GPSなどの GNSSは、この電波塔を宇宙に移動させたもの、と考えることもできるでしょう。


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