速度低下
昨年より提供開始した、ブロードバンドサービス「IIJmioひかり」ですが、都道府県により極端に通信速度が低下するという現象が発生しています。ご迷惑をおかけしているご利用者の皆様にお詫びします。
同様の現象は、NTT東西の光コラボレーションモデルやフレッツ光を利用する他のISP(プロバイダ)でも発生しているという話をSNSなどで見かけます。今回の記事では、こういった現象が何故発生しているか、どうしてすぐに解消できないのかを説明いたします。
光コラボの仕組み
IIJmioひかりでは、NTT東西の「光コラボレーションモデル」と呼ばれる仕組みを使っています。光コラボレーションモデルについては以前このblogでもご紹介しました。この記事にもあるとおり、従来はNTT東西が提供するフレッツ光とIIJmioのようなISPをご利用者にばらばらに契約して頂いていたものを、まとめてISPが提供するようになったのが「光コラボモデル」です。契約の方法こそ変わりましたが、通信に関する技術面は従来のフレッツ光と変わっていません。今回の記事では光コラボサービスを利用した「IIJmioひかり」の状況について説明していますが、従来のフレッツ光を使ったサービスでも同じことが起こっているとご理解ください。また、他ISPの光コラボサービス・フレッツ光を利用したサービスでも仕組みは同様かと思われます。
IIJmioひかりでは、ご利用者のご自宅に引かれている光ファイバーはNTT東西が敷設したものを使います。これらの光ファイバーはNTT東西が都道府県毎に構築した「NGN」というネットワークに接続されています。各ISPは都道府県毎に指定されたNTTビルに通信回線を引き込み、NGNと相互接続しています。このような接続を経て、ご利用者とインターネットが接続されています。
この仕組みはモバイル通信におけるMVNOのサービス提供の方法と似ています。一つ大きな違いは、MVNOでは日本全国の利用者の通信が一箇所1に集約されてISPと接続しているのに対し、フレッツでは原則として都道府県毎にばらばらにISPと接続している点です。2この件は後に詳しく書く混雑の傾向に影響しています。
次に、各都道府県のNTTとISPの相互接続について詳しく見てみます。各都道府県の中で代表となるNTTビルには、各都道府県のNGNと、ISPに繋がるネットワークが引き込まれています。そして、ビル内に設置された中継用の設備を介してNGNとISPが接続されています。
現在、IIJmioひかりをご利用頂いている皆様は、「PPPoE」という通信方式を利用しています。PPPoE方式を利用する場合、NGNとISPの間に「網終端装置」と呼ばれる設備が設置されます。
ボトルネックはどこにある
最近発生している速度低下の原因はいくつかありますが、今回は網終端装置について取り上げます。
1台の網終端装置で対応できるトラフィック(通信量)には限りがあります。そのため、NTTビル内には多数の網終端装置が設置されており、利用者からの通信をそれぞれの網終端装置に分散することで、数多くのご利用者の通信に対応しています。ご利用者宅でブロードバンドルータの電源がONにされ、PPPoE接続が開始されたタイミングでどれかの網終端装置に接続されます。
しかし、ISPのご利用者数・通信量に対して網終端装置の台数が不足すると、終端装置で混雑が発生し通信速度が低下してしまいます。これが現在IIJmioひかりで起きている速度低下の原因のひとつです。
網終端装置が原因となる速度低下には、以下のような傾向があります。
- 同じISPでも都道府県によって混雑状況が異なる
- NGNは都道府県毎に別個に作られており、網終端装置も別々に設置されています。混雑している県・していない県によって混雑状況が異なります。
- 同じ県でも混雑しているISPと混雑していないISPがある
- NGNとの接続はISPごとに別々のため、ISPによって混雑状況が変わります。
- ブロードバンドルータを再起動すると、通信速度がある程度改善することがある
- 前述の通り網終端装置は複数あります。ご利用者が接続した網終端装置の混雑が少ない場合、通信速度がある程度速くなることがあります。
この状況を改善するためには、網終端装置の台数を増やす必要があります。IIJでは継続的にNTT東西に対して増設の申し込みを行っており、準備ができた都道府県から順次増設が行われています。増設が完了するとある程度通信速度は改善するのですが、ご利用者が増えて通信が増えると再び速度が低下します。もちろんIIJからは再度増設の申し込みを出しますが、次の増設が実行されるまでの間は速度が低下した状態が継続してしまいます。3
ボトルネック部分をバイパスする
前述の通り、IIJ・NTT東西では網終端装置の混雑に対して、今後も継続的に増設を行っていきます。それと平行して、現在ボトルネックになっている箇所をバイパスするサービスを提供することにいたしました。それが本日発表した「IIJmioひかり IPoEオプション」と「DS-Lite」4です。
- IIJmioひかりにおけるIPoEオプション提供開始のお知らせ (IIJmioおしらせ)
IIJmioひかり IPoEオプションで使用する「IPoE方式」は、NGNとISPを繋ぐ新しい方式です。この方式自体は2011年から導入されており、IIJでもFiberAccess/NFというサービス名で提供していました。56これをIIJmioひかりでも利用できるようにいたしました。
IPoE方式の最大の特徴は、NGNとISPの接続に網終端装置を用いないことです。このため、IPoE方式を使った通信では、現在IIJmioひかりで発生している網終端装置に起因する混雑は発生しません。
なお、IPoE方式はIPv6のみのサービスで、現在主流のIPv4は利用できません。そこでIPoE方式と「DS-Lite」という通信方式を組み合わせることで、IPv4も利用できるようにします。DS-Liteを使った場合でも、NTTビル内の網終端装置は通らずに通信が行われるので、網終端装置の混雑の影響を受けることはありません。
Google(Youtube含む)や、Facebookなど、IPv6でも提供されるサービスも増えてきています。これらのサービスはDS-Liteを使わなくても通信可能です。
DS-Liteの仕組みついては以下の記事も併せてご覧ください。
IIJmioひかりで提供するIPoE・DS-Liteのサービスは、IIJグループのインターネットマルチフィード(MFEED)が設備を運用しています。なお、ご契約・料金のお支払い・サポートはIIJmioの窓口で承ります。
DS-Lite方式では、MFEED内にあるDS-Lite用の機器(AFTR)を利用します。ご利用者が増え、通信が増えるとこのAFTRが混雑する可能性はあります。この点においてはDS-LiteもPPPoEと同じリスクを抱えています。MFEEDは前述の通りIIJグループの会社ですので、密に連携をとりながら設備の増強に努めて行きたいと考えています。
IPoE + DS-Liteを使うためには
すでにIIJmioひかりをご利用の方がIPoEとDS-Liteを行うためには、IPoEオプションのお申し込みと、対応ルータの用意が必要です。
IPoEオプションの申し込み
IIJmioひかり IPoEオプションのページからお申し込みください。オプションの月額利用料は800円となり、現在お支払い頂いているIIJmioひかりの利用料金に加算されます。
対応ルータの用意
DS-Liteをご利用頂くには、対応ルータが必要になります。市販の家庭用ブロードバンドルータでDS-Liteに対応しているのは以下の機種です。
- WXR-1900DHP (株式会社バッファロー)
- WXR-1750DHP (株式会社バッファロー)
- WXR-1900DHP2 (株式会社バッファロー)
接続・設定
ご自宅に設置されたIIJmioひかりのHGW(ホームゲートウェイ)・ONUに対応ルータを接続すればIPoE、およびDS-Liteが利用できます(DS-Liteの設定は不要です)。現在ご利用中のパソコンがHGWに接続されていたり、HGWの無線LANを使うように設定されている場合は、新しく設置したルータに接続する(無線LANを利用する)ように設定を変更してください。
ご不明な点はIIJサポートセンターでご案内させて頂きます。また、簡単なご相談であればTwitter @iijmioでもお答えいたします。
DS-Liteについての参考情報
市販されているDS-Lite対応ブロードバンドルータ以外の方法で、IIJmioひかりのDS-Liteを利用する方法をご紹介します。なお、ここで紹介するのは設定例です。この設定で確実に動作することは保証していませんので、あらかじめご了承ください。また、以下の設定を行うにはコンピュータの知識が多少必要になります。設定方法がご不明の場合は、上記対応ブロードバンドルータをお使いください。
※現時点でWindowsパソコンから直接DS-Liteを利用することはできません。
業務用機器を利用する方法
SEIL/x86を始めとしたSEILシリーズや、YAMAHA・NEC・Ciscoなどの業務用ルータも利用可能です。設定に関する参考情報はMFEEDのページに掲載されています。
- DS-Lite IPv4接続オプション接続確認機種情報 (MFEED)
Raspberry Pi(Linux)をDS-Lite対応ブロードバンドルータにする方法
上記のブロードバンドルータの代わりに、Linuxをインストールしたワンボードコンピュータ「Raspberry Pi」をブロードバンドルータにする方法をご紹介します。Raspberry Pi以外のLinuxホストをルータにする際にも参考になると思います。
MacOS XでDS-Liteに接続する方法
MacOS Xがインストールされたパソコンで直接DS-Liteを利用する方法を紹介します。